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2019-07-01

ヴィナイオータ かわら版 ~桑原編 その弐~

桑原の“飲んでもらいたい”ワイン紹介!

ソル モスカート パッシート 2010(Ezio Cerruti)

皆様 こんにちは。2回目の登場となります。ダダ農園(仮称)農場長 桑原です。

来年から本格始動するであろうダダ食堂、ダダ売店で取り扱う野菜を用意するため、つくば本社に近いところで畑を借りて試験栽培をしています。

わたくしはつくばに住むのも初めてで、この地がどんな気候なのかも実感として分からないのもありまして、どんな作物がどんな時期に育つのか?まずはそこを知るため、何十種類という野菜を育てています。

「八十八夜(5月2日前後)の別れ霜」を避けて、大型連休開けを待ってキュウリやズッキーニなどの夏野菜の苗を畑に定植したのですが、その後に一日限りの寒波が到来。最低気温が4度付近まで下がり肝を冷やしたのですが、霜が降りることもなくやり過ごすことができました。霜にあたってしまうと葉が凍って最悪の場合、枯れてしまうのです。

ブドウの栽培においても春の遅霜や、収穫前の一瞬の雹で全滅することも少なくないと聞きます。野菜の場合は、夏野菜がダメでも秋野菜で挽回が可能ですがブドウの場合はそうはいきません。一年の収入の大部分を一日の気候の急変で失ってしまうのです。

彼らの日々の緊張感や精神的な負担は想像を絶するものがあります。無事に収穫できることだけでも、それはとても幸せなことなのだと思います。飲み手である我々も、実感はできないまでも、造り手たちの気持ちを想像し、彼らの働きや自然の恵みに感謝していただきたいものです。

さて、今回、私がお勧めさせていただくワインの造り手は、モスカートをこよなく愛する男、エツィオ チェッルーティです。

農を営む人間であった私がもっとも親しみを感じた生き方をしている造り手が彼です。

彼の哲学を一言で表すと「足るを知る」といったところでしょうか。

先日、来日したカーゼ コリーニのロレンツォ氏は持続可能な農業の重要性を語るなかで、土壌の健全性を全く考慮しない耕作手段や、過剰に生産するための過大なエネルギー消費が、いかに人間に破滅的な将来を招くのかを、熱く説いていました。

そのような農業を変えていくためには、農業者のみならず消費者も意識を変えていくことがもっとも重要ではないでしょうか?その基本的な考え方が「足るを知る」ということだと私は思います。

モスカート ダスティ、アスティ スプマンテ用ブドウの生産が主な地域であるカスティリオーネ ティネッラにおいて、天日干しという製法で造られるパッシート ソルの生産量は年間約6千本です。彼のモスカートの畑は6ヘクタールもあるわけで、その気になれば数万本を造ることは可能です。

それでも、畑の作業とセラーの仕事を一人でこなす彼にとって、納得できるワインを造るための手間を考えると、その本数が適量だということです。経済的な利益を大きくするために必要以上の生産を行い、世界中に売り込んでいく。そういうことをするよりも、彼は、自分の労力をよりよいワインを造るために集中することを選んでいます。

パッシートにしないブドウは以前は協同組合に全量売却していたとのこと。せっかく丹精こめて栽培したブドウを売ってしまうのはもったいないという“しゃちょうオータ”の提案もあって現在は辛口のフォル、リフォルを造るようになりましたがそれでも、造る本数は確実に売れる分だけしか造らない。

彼は現状の生活で既に幸せであるし、ワイン造りに集中できる毎日に十分に満足しているに違いありません。そんな彼がお世話するブドウもきっと幸せな一年を過ごしたであろうし、健康的な果実をつけているに違いなく、そして、その後のセラーにおいても、無理の無い自然の摂理にそった仕事がされているはずです。

私も充足した日々を過ごさせていただいておりますが、そんな精神的に豊かで、幸せな毎日の締めくくりには、彼のような哲学をもった造り手のワインを飲みたいなと思うのであります。

<<桑原の飲んでもらいたいワイン紹介>>

銘柄:Sol Moscato Passito ソル モスカート パッシート 2010
ブドウ:モスカート
造り手:Ezio Cerruti エツィオ チェッルーティ
地域:伊ピエモンテ州
希望小売価格:4,600円(税抜)

特徴的な方法で天日干しをしたブドウを使って醸造するこのワイン。過去何度もご紹介しているかと思いますが、改めまして・・・。

ブドウが熟したタイミングで、果実がついた枝をブドウ樹から切り離し、そのまま支柱である針金に宙ぶらりんになった状態で約2ヶ月天日干ししたモスカートを丁寧に収穫後、圧搾、樽で3年以上の時間をかけてゆっくりと醸します。

しっかりと甘い。そして凝縮された旨み。

甘い!甘いのですが、くどさは全くありません。複雑さの中でも、すっきりとしていて清々しささえ感じます。元来、甘いワインが苦手だった私も、思わずお勧めワインにしてしまったほど目から鱗のワインです。一口含むたびに贅沢な時間を感じることができます。

暑い時期には軽く冷やして飲むとよりいっそう美味しく感じるかと思います。わたくしは特に暑く農作業に疲れた日は一杯のソルを食後にいただきます。五臓六腑に染み渡る美味しさです。夏バテやスポーツのあとの疲労回復にも最適かと思います。

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