toggle
2023-05-23

ヴィナイオッティマーナ2022【造り手セミナー】ラディコン

①セミナー動画 (質問コーナー|04:57~)

ヴィナイオッティマーナ2022 P4 DAY1に行われたセミナーの様子です。フリウリ ヴェネツィア ジューリアのラディコンより、ピリオド1で母スザーナが来日したのに続き、現当主のサシャが来てくれました。

②造り手紹介 (0:00~)

ラディコンの造り手紹介、詳しくはこちらから。

③造り手への質問と回答

Q1. 前回来日時、ワイン造りで大切なことは「一つのところに止まらない勇気」という言葉がありましたが、新しくチャレンジしていること、またはこれからチャレンジしたいことがあれば教えてください。(04:57~)

A1. 前回来た時にたしかにそのようなことを言ったことを覚えています。ひとところに留まることの危険性というか、何かに到達したと思ってしまうこと自体が思考の停滞を指す、それではだめだと思っていたんだと思う。前回は自身の父親のスタンコが亡くなった後に初めて来たということもあるので、皆さんからのその類の質問が意味することというのは、自分の父親がやってたことをやり続けるんですか、という意味さえも含んでいるようにとらえて、自分はそのように答えたのだと思う。

仮に自分の父親がたとえば2013年までワインを造っていたとして、彼が当時造っていたワインを今も造っていたとしたら何の意味もない。彼がもし今生きていたとしたら、10年前と違うことを絶対やっていると思う。ほんの少しずつ、こういうこともできるんじゃないか、ということを毎年新しい収穫、新しい醸造のなかで、大きく変えるのではなくても何か小さな新しいアイデアを次の年の仕込みや畑での作業に活かしていくということは絶対に彼もやってきた。だから、このまま留まるべきではない、ということを言いたかったのだと思う。

チャレンジしたいこととしては、おそらく今年からやれるようになると思うが、スロヴェニアでワインを造るということ。スロヴェニアで彼らが畑で育てたブドウをスロヴェニアでワインにする、ということをできたらいいな、と思っている。国境を挟んでイタリア側に、自分たちのワイナリーや家があるからイタリア人なわけだが、マインドや人種的にはスロヴェニアにアイデンティティがあると思っており、それを表現するために。実際、スロヴェニアにも畑を持っている農民だけが通れる国境もあった。そういう時代背景や状況があるので、それを表現するワインが造りたい。

Q2. 自分の子供に家業を継いでほしいと思いますか?(10:44~)

A2. 継いでもらうことはおそらくすべての親御さんの夢だと思う。自分の父親がしてくれたように、自分自身も自分の子どもに振舞いたいと思う。自分の父親から、継ぐことについて一度もプレッシャーをかけられたことはない。父のやっている仕事を続けたい、継ぎたいという自分の意思で始められた。ワイン造りをある種のアートと考えると、画家が自ら絵を描き始めるように、人に言われてやるのではなく自分のなかから湧き上がるものとして、ワイン造りや畑での仕事に向き合ってくれる子になってくれたらうれしい。ワインを取り巻く世界の素晴らしさはできるだけ伝えていきたい。自分が知ったことや感じたこと、今までの経験についても余すことなく伝えていきたいが、最終的には彼らが決めることだと思う。

Q3. 世界のオレンジワイン事情についてどう思いますか?(14:32~)

A3. 白ワインに関して初期段階で多少皮ごと醗酵させるということは真新しいことではなく、おそらくどのような土地でもやってきたことではないか。再び脚光を浴びるのは光栄な部分はあるかもしれないが、決して特別でなく普通に行われてきたことのような気がしている。戦後の発展のなかで、水道管や下水管が通ったりアスファルトが敷かれるようになったり、世界がより清潔な方向に向いてきた。100年前まではもう少しラフだったことが世界にはあった。戦後10~20年くらいで、きれいに整えることが進んでいった時期があった。そして時を同じくして、ワインの世界でもクリーンであることがマストであると思わせるような流れが始まっていった。

ワインをクリーンに造るため、低温で管理してブドウ由来のアロマが焼けないような醗酵が採用されたり、低温で醗酵させようと思ったら野生酵母だけでは醗酵がスムーズにすすむとは限らないので培養酵母を加え、ワインになったら微生物は悪者と称して酸化防止剤を入れたり目の細かいフィルターを通したりして、まったく生き物がいない環境をつくるのが現代的なワイン。ワインをクリーンにするために生まれた、時代背景のなかでは仕方のないことだったかもしれないが、皮の色が違うというだけでなぜそもそも造り方を変えないといけないのか。

収穫したてのブドウの皮は張りがあり、その状態でプレスしてもジュースが絞り出てこない。皮のまわりの微生物がいることを考えると、軽く潰して醗酵を促した後であれば、皮も緩むのでその後に絞ったほうが液体を絞ることができる。醗酵がスムーズにすすむ、液体がいっぱい取れるほうが、たくさんワインができるのでそちらのほうがいい。

一つ問題があるとしたら、皮ごと醸すということは、皮から固形成分をたくさん抽出することになるので、クリーンに造ったワインよりは濁る、たくさん固形成分がある状態になる。それが自然にデカンタージュ、下に落ちてくるのを待とうと思ったら時間が必要。だから、ブドウを収穫してから半年後にリリースできるオレンジワインというのは、物理的には存在しないかとても濁っている状態。

ワインの世界でも、時間をかけることを見直すターニングポイントに入ってきている。スペースと時間にコストをかけることが難しい時代に入ってきたが、時間をかけなかったら出せない味やモノもあるはず。生産者や消費者がそれに対して正当な評価をできるようになる、そのきっかけの一つにオレンジワインがなっていければ、それはそれでいいのではないか。

オスラーヴィア村は人口200人くらいの小さな村だが、そこにラディコンやグラヴネル、ラ カステッラーダ、ダーリオ プリンチッチという世界を代表するオレンジワインの造り手がいる。そんな小さな村からメッセージを放って、世界のいろんなところでそういうワインを造り手が現れ始めていることは光栄以外の何物でもない。それがまわりまわって、遠い日本でもオレンジワインを造っている造り手がいて、彼らのワインが美味しかったことがとても光栄だった。

④まとめ

いま振り返ると、前回2019年に一人で来日した際は今回よりも少し緊張していたような気がします。今回の堂々とした姿は、当主として自分の道を歩んでいるということをまざまざと感じさせてくれました。

イベント前のツアーにも同行させてもらったのですが、印象的だったのが日本式の挨拶や日本語を積極的に話したり質問すること。北海道の造り手を見学した際も熱心に意見交換をしていました。謙虚で誠実、そしてチャーミングな人柄が印象的でした。(担当:石橋)

関連記事