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2014-11-22

造り手紹介 トリンケーロ

ようやくオオトリにまで来ました!!でも、もう8時間で造り手達が来日です…。
このツアーが終わったら、2月のオッティマーナ赤2015まで2か月…また新たに造り手紹介文を書き始めないと…ひえええ。

今回紹介するのは、トリンケーロです!!!根拠はありませんが、サクサク書ける気がしたので取って置きました(笑)。

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エツィオ トリンケーロ
イケメンで、快活&爽やかで、曲がったことが大嫌いで、正義感に溢れ、独身で、資産家で、かっちょいい車とバイクに乗り、音楽とかもやっちゃったりして、美味しいレストランにも無茶苦茶詳しくて、おまけに造るワインも美味い!全男性の敵のようなやつです(笑)。

トリンケーロは、アスティ県で一番最初にDOCワインの自家元詰めを行うための登記をした造り手で、エツィオが3代目に当たります。当初から、自然環境の最大限の配慮を払った農業を心がけ、セラーでも人為的関与を極力避けたワイン造りを理想としてきました。彼がワイナリーの仕事をすべて任された時点では40haもの畑を所有していたそうなのですが、品質の高いワインを造るのには広すぎる!!ということで、もっとも条件の良い畑10haほどを残して、他は全て売却ないし賃貸ししてしまいます。
残した畑の中でも、最も重要な2区画が、ワイナリーに隣接した畑、ヴィーニャ デル ノーチェ(以下ノーチェ)とノーチェに隣接するバルスリーナという事になると思います。ノーチェは、1920年代に、バルスリーナは、30年代にバルベーラが植えられた畑です。

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ヴィーニャ デル ノーチェ。畑とセラーの間にある道路沿いには、クルミの樹が植わっており、通り名自体も、ヴィアノーチェ(くるみ通り)と言うため、その道に隣接している畑の名前にもノーチェがついています。

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左側のちょこっと写っているのが、エツィオのお屋敷、ヴィアノーチェ、クルミの樹とヴィーニャ デル ノーチェとエツィオが30年以上前に初めて買ったヴェスパを完全にレストアしたという事で、無理矢理乗せられているオータと自慢げ&楽しげエツィオ。

バルベーラが主要品種ですが、その他にもなんと9種類のブドウを栽培していて、白以外は全て単一品種でリリースさせていますので、ワイナリーの規模を考えてると、非常に多種類のワインを造っていると言えると思います。
特筆すべきは、リリースされる全てのワインが、他の造り手の追随を許さないくらいのクオリティとテンションを備えているというところ。ですが、どのワインもがあまりにも普通に凄すぎるので、逆にありがたみ感に欠けてしまうのか、個々のワインに対する注目度が散漫になっている時があるような気がします。
ですが、その高いレベルの“トリンケーロ スタンダード”は、どのようにして維持されているのでしょう??答えは簡単、納得できないものはボトリングしないのです!!揮発酸が高くなりすぎたものはお酢屋さんに、揮発酸は高くないけどワインとして少しでも腑に落ちないことがあったらバルク売りをしてしまうそうで、僕が訪問した翌日にお酢屋さんが来ることになっていて、8000リットル(!!!)渡すと言ってた時には、目が点になりました…。

エツィオは、造り手としてではなく、いち飲み手としての観点から他の造り手のワインの事も正当に評価できる男だったりするのですが、自分のワインに関するコメントはというと、「ヒサト、信じてくれ。マジ死ぬほど美味いから!」とか、「マンマミーア、クレイジーなくらい美味い!!」など、とても理性的とは言えないものだったりして、聞いてて思わず笑っちゃいはするのですが、彼の言う通りでなかった事など一度もなく、それもそのはずで、本当に自信があり、ボトリングを考えているものだけを飲ませてくれているわけですから…。

飲み手からしたら、大変にありがたい存在のトリンケーロですが、様々な状況が重なり、ワイナリーの縮小を考えているようです。

理由1:人材確保が困難。「失業率が高い!仕事はどこにある?とか抜かしてる割には、こういう仕事には目を向けねえんだよな…。」
理由2:高齢の両親の世話に時間とテンションを持って行かれる。まあ、これは独身貴族を謳歌し過ぎた代償とも言えるわけですが…。あれほど、伝統のあるワイナリーであることに誇りを持っている割には、それを維持継続するための努力に欠けたような気も。モテなかった男のやっかみでしょうか?(笑)
理由3:これはパーチナのところで書いたこととも重なるのですが、彼らからしたら、いわれのない理由でDOC、DOCGの官能検査を落とされる。落とされること自体も問題なのですが、再検査するのにも再び書類用意したりと不毛な労力&時間が必要になる。近年、書かなきゃいけない書類の量がハンパなくなってきているようで、基本すべて自分でやらなければいけない小規模ワイナリーにとっては非常に負担となっています。

ここで話は飛びまして…
「ダダ(僕の呼び名)、遊月(ゆづき、娘の名前)ってどれくらいワイン持ってるの?100本?」と愛娘(5歳)。
「ゆづちゃん、100本なんてもんじゃないよ!!いいいいいいいっぱい持ってるよぉ。そのうちアユート!みたいな、ゆづちゃんのワイン造ってもらうから、もうちょっと待っててね。」と、当てもないのに約束してしまった僕だったわけですが、チャンスは突然訪れます。
今春トリンケーロを訪ねた際、
「次のアユート!ロッソなんだけどさ、いいワインがあるんだよ。ヒサト、そういえばお前の娘って2009年生まれだったよね?」と言いながら向かった先にあった樽には、VinoRosso(ヴィーノ ロッソ)とだけ書いてある…。

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近年、EUレベルでの法律が厳しく、樽ないしタンクの中にどんなワインが入っているのかをちゃんと明示しておかないと罰せられることもありまして、DOC、DOCGないしIGTのワインに関しては良く、
Vino atto a divenire XX DOC (XX DOCワインになる適性を備えたワイン)
と書いてあったりするのですが、ヴィーノロッソとしか書いていないという事は、VdT(ヴィーノ ダ ターヴォラ)、つまりテーブルワインで、ラベルへのヴィンテージ表記も許されないワインという事で…。
「で、このワインて中身なんなの?」と僕が聞くと、
「ああ、ヴィーニャ デル ノーチェ(以下VDN)の09」と平然と答えるエツィオ。
当たり前ですが、滅茶苦茶美味しいぃぃぃっ!!これがなぜヴィーノ ロッソ?なぜ普通にVDN(DOCGワインとして)として売らないの??という疑問が頭に渦巻いたままところに、
「09といえば、もう1つすげえいいワインがあるんだよ」と言って飲ませてくれたのは、パルメと呼ばれる区画に、1982年に約2ha植えられたバルベーラでした。
これまた更にパワフル&タニックでVDNよりも荒々しいけど、すんばらしいワイン…。なんでも、東向きにやや傾斜した畑で、日光を1日中浴び、土壌も素晴らしく、いつもアルコール度数、ストラクチャーがしっかりしていて、素晴らしい香りのブドウを生み出す土地だそう。
「VDNが1樽、VDNとパルメが半々のが1樽、パルメ単一の樽が2樽あるんだけど、どうよ?」とエツィオ。
「え、それって合計4樽で1樽5000リットルだから…約3万本??????ひええええ。でも、娘のヴィンテージだし、1樽分ずつ引き取っていいのなら行く!!!」と僕。
味わいを一定にするために4つの樽のワインをブレンドし、ボトリングしてもらったものが今回のa-iuto!(ア ユート)ならぬ、a-yuzuki!09(ア ユヅキ)となります。息子の遊人には申し訳ないですが、彼のヴィンテージ05に比べると09は全てがリッチですし、欠点のかけらも見当たらないワインです。(ですが、アユート!05も、もうしばらく時間を与えてあげて、あの揮発酸が落ち着いた頃にはとんでもないことになると思います!!)
そんな凄いワインをなぜテーブルワインとしたのか?という疑問に関しては、概ね答えは分かっていたのですが、一応聞いてみたところ、こんなメールが届きました。

2009年のバルベーラは、アルコール度数も高いし、マッチョで、色も物凄く濃いワインとなっちゃったから、絶対に官能検査を通らないと思って、最初からDOCGの申請をしなかったんだ。自分たちに限らず、テロワールを内包したワインを造ろうとしている他の(誠実な)造り手たちも、彼らのワインが官能検査では理解、評価されず、(ワインを原産地呼称委員会の望むように補正したうえでの)再検査を指示されたり、落第という烙印を押されたりしているのは、ヒサトも知っての通りで、だからうちらはDOCGを申請する量を意識的に減らしているんだよ。
彼ら(委員会)は、製造過程の様々な場面で修正、補正を施した、醸造学的に欠点のない“完璧なワイン”を支持してるけど、うちらはそんなワインに興味ない。だから、できるだけ原産地呼称という権威の力を借りずに前に進むために、ヴィーノ ロッソとして出すようにしているのだけど、マーケット全体がこの選択を理解してくれるわけでもないから、DOC,DOCGから完全に“足を洗う”というのはなかなか難しくて…。
2010のバルベーラも半分は落とされて、もう半分は、通りはしたけど、“(酸化防止剤を添加して、)もっと保護すべし”という一言と共にギリギリ通った感じ。
そして一度、DOCGの認証をもらったら、6か月以内にボトリングをしなくちゃいけなくて、それを過ぎてしまうともう一度申請し直さなきゃいけないっていう…。1回通ることだって、うちらにとっては、すでに大変な事で、再申請してまた合格するだなんて全く保証はないし…。そして6か月ってあっという間なんだよね。例えばなんだけど、今年の5月に2010年のバルベーラの認証が取れたんだけど、11月中旬までにボトリングしなきゃいけなくて、今回の場合それが意味するのは225ヘクトリットル、つまり30000本分のワインをボトリングするという事で…セラーのどこに30000本ものワインをストックしておくスペースがあるっていうんだよ…はああああ。

ワインは、ボトルに入れた瞬間にセラー内のスペースを取る存在になりますので、エツィオの場合生産量の多いワインは、何回かに分けてボトリングをしていたのですが、半年以内ボトリングルールができてしまったので、一気にボトリングするようになり、大量のボトルをストックするために、物置を改装してストックヤードにとまたしても出費を強いられ…。今まで通りに数回に分けてボトリングしたとして、1回目は通ったけど、2回目に落とされたら、同じワインなのに違う名前でリリースせねばならず、当然のことながら、別ラベルも用意しなければいけないわけで…。
もしかしたらですが、こんな価格で彼のワインが楽しめる時間も、そう残されていないのかもしれません…。

ただでさえワインを長期熟成させているので、セラーにはワインがいっぱいあるし、畑を手伝ってくれる人もいないし、諸々のルール改正もさらなる投資を強要するようなものでと、踏んだり蹴ったりなんです。大手のワイナリーにとっては、なんの問題のないことでも、小規模な造り手には大きな負担になることが増え過ぎて、本当に誠実な造り手にとっては生きづらい世の中になって行っているのを感じます。そんな彼らを将来的に助ける術があるとすれば、誠実な造り手が醸す誠実なワインが圧倒的に支持されているという、お上(政府、原産地呼称委員会など)からしてみたら無視できない状況、ムーヴメントを生み出すことが必要なのではないでしょうか??そのために僕たちができる事は、明らかですよね?
守るためには戦わなければいけない、心ある造り手の心が折れる前に…これが僕を駆り立てる(生き急がせる)一番の要素なのかなぁと思うことしきり…。

他者から頂く賛辞って、手放しで嬉しくないですか??人って、自分をフォローしてくれている人がたくさんいると思えた時に強くなれると思うのです。
世知辛い世の中で、馬鹿正直に生きている造り手達ですので、「君たちのワイン、サイコー!」って感じで声を掛けてあげてください。その声の多さ、熱量が彼らの中に貯まり貯まると、日本を出発するころには、やる気満々、「剪定、ぎゃんばるぞぉぉぉ!!!」って感じだと思います!!(笑)
あ、もちろんおべっかもお世辞も必要ありません。本当に美味しいと思った時だけ、そう伝えてあげてください!!あ、当然のことながら、どこかの会場に来て頂かないとそれも叶いませんが(笑)。
是非!!!!!
そして会場でお会いしましょう!!

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