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2020-08-07

【新入荷】2020年8月その1(De Fermo、Arianna Occhipinti、La Biancara、Stefano Legnani)

ワインの起源(その3)

ワインは安全な水分確保という目的で普及していった…こう書くと、我々日本人にはピンとこないところがあるかもしれません。日本は、ヨーロッパに比べると降水量も多く、国土の7割以上が山地ないし丘陵地で、(国土の)約2/3が森林であるため、保水能力(かん養機能)が高い土地柄。加えて、山地山脈が国土全体に分布し、急な流れの河川が多いこともあり、河川が運んできた土砂が堆積することで形成された、沖積地(平野、盆地)が全国各地にある。そして沖積地は、一般的に地下水が豊富な上に、岩盤質の土壌と比べたら井戸を掘るのも容易…。加えて、湧き出る水のほとんどは軟水なため、身体への負荷も少ない…。

僕も含め多くの日本人が、それがあたかも当然であるかのように享受してしまっているので、ありがたみを感じ辛いのだと思うのですが、歴史的&世界的に見ても日本ほど安全な水に恵まれてきた国は稀なのではないでしょうか。日本では、飲食店に入店するとほぼ無条件でお水やお茶が出てきます。もちろんそのほとんどが水道水、もしくは浄水器にかけられた水道水なのでしょうが、こういった習慣の中にも、長年にわたって安全な水に恵まれてきたことが垣間見える気がします。

に対して、水道水が全くもって飲用に適していないわけではないけれど、ごくごく飲むには硬すぎることの多いヨーロッパでは、水は基本買うものであるという習慣が定着しています。物流の発達した現代だからこそ、ペットボトルなどの容器に入った水を買うことができますが、そのような選択肢が存在しなかった時代はそれほど昔の話ではありません。日本ほどには安全な水に恵まれなかった土地柄だったからこそ、文明文化を発展させていくためには、適地を見定めてブドウを植え、ワインを醸す必要があった…。そのことを裏付ける、ブドウ栽培が広まっていく上で追い風となった要素や、ワインを始めとしたいくつかの飲み物が文明の発展に寄与した証左、そして文化、習慣の中から読み取れるワインの持つ絶対的な存在意義などを列挙していきますね。

●適した気候:ブドウは、生育期間中の雨や寒さを嫌う植物です。ブドウ栽培そしてワイン醸造の発祥地と言われているコーカサス地方も、その乾燥した気候と少ない降雨量などの理想的な環境が揃っていたからこそ、ヒトは(ブドウ栽培を)始めたのではないでしょうか。ヨーロッパも、年間降雨量が少ないだけでなく、ブドウの生育期間とあまり重ならない時期(秋から冬にかけて)に雨が多いという気候的特徴もブドウ栽培という文化が広く伝播していくための味方をしてくれたのかと。

逆に日本は、高温多湿な気候に加え、生育期間と重なる時期に(初夏から秋にかけて)雨が多く、あらゆる種類の果樹栽培にとって苛酷な環境です。日本の果物の価格が高いのは、ひとえに栽培の大変さ、手間がかかることに起因しているのだと思います。造り手が初来日した際には、必ずと言っていいほどデパ地下の果物売り場に連れて行き、マスクメロンの価格を目の当たりにして驚愕する彼らの顔を面白がっていたオータも、みんながあまりにも一様に驚く様を見て一考、とある結論に達します。

「イタリアでは、店頭で、100ユーロで売らなければいけないほどにコストをかけた“メロン作り”自体が存在し得ない。(=そこまでコストをかけなくても、“十分に”美味しいメロンができる)」のだと…。

カーゼ コリーニのロレンツォ コリーノ博士が2011年に来日した際、日光東照宮を見学している最中にこんなことを言っていました。

「ヒサト、君が言っていたことがようやく理解できたような気がするよ。屏風、欄間、襖絵、彫刻など素晴らしい作品をいろいろ見させてもらったけど、ありとあらゆる意匠の中に果実が登場しないのだよ!我々の場合、古代ギリシャ、ローマ、そして中世…どの時代の作品にも、ブドウやオリーヴなどが登場しないほうが珍しいくらいなのに…。このことは、日本が果樹栽培をする上でいかに大変な場所か、そして地中海世界の発展繁栄は果樹の恩恵に与ったものであることを、十分に示唆していると言えるね。」

安全な水分を確保しづらい土地に生る瑞々しい果実は、命を繋ぐ大切な糧だったのだと思います。

●“浅い井戸”としての果樹:安全な水分を得ることが難しい環境下で果樹栽培を進めることは、浅い井戸を掘るようなものだったのではないでしょうか?ローマ人が帝国拡大を目的に各地に侵攻していった際にブドウを植えたのは、(侵攻に成功して、その土地を支配するために)移り住む上で、十分な量の安全な水分、栄養、そして最終的には富さえも担保するためだったのかと。

●適地を選ぶ:イタリアに本格的なブドウ栽培、ワイン醸造技術をもたらしたのは、エトルリア人とギリシャ人だと言われています。南イタリアやシチリアは、そんなワインの師匠であるギリシャ人をして“エノトリア テルス(ワインの大地)”と言わしめたほどに理想的な気候環境がありました。中でもシチリアは、穀物生産においても歴史上で重要な役割を果たします。ブドウや穀物などの栽培が困難な場所では、羊などを放したのかと…。パン、ワイン、果物、チーズ、肉、そして海の幸に困らない土地…これを楽園と呼ばずしてなんと呼ぶのでしょう…。海運上の要衝だったことと、豊かな恵みが約束された土地だったという2つの理由から、様々な勢力が覇権を争ったのかと。少々話は逸れましたが、ローマ人が勢力を拡大し、定住し、糧を得るためにブドウを植え、穀物を育てようとした際、土地によっては南イタリアのようにはいかないことに気が付いたのかと。

今日では広大なブドウ畑が広がる、(ポー川流域の)パダーナ平原の低地部は、湿度が非常に高く、あくまでも農薬の恩恵(?)にあやかれるようになった現代だからこそブドウ栽培が実現する地域。スーパー機械化された集約的な農業、多量の農薬散布、低コストのブドウ、低コストのワイン…。農薬のなかった時代には、作業上の都合以上に、(ほぼ)確実に実りをもたらしてくれる、それぞれの作物にとっての適地をしっかりと見定める必要があったはず。

平地やある程度の広さがある緩やかな丘陵地は、穀物栽培や酪農に、逆に穀物栽培や酪農には不向きな斜面地であったとしても、水はけが良く、豊かな日照が確保できるのならば、ヒトは無理やりにでも開墾してブドウを植えた…。ヴァルテッリーナ、チンクエテッレやモーゼルなど、とんでもない斜度のところにブドウが植わる光景を目の当たりにしたら、そんな場所を開墾すること自体が命の危険が伴うものであったことは容易に想像つくと思います。そして、命を懸ける必要があったのは、そこでできるものが命(生)に関わるものだったから…。アルコールが好き過ぎて…では、イマイチ説得力に欠けますよね(笑)。

●生水を安全に飲むためのワイン:いかなる過程においても水を一切加えず造ったワインは、非常に高価で、長きにわたって裕福な人や身分の高い人だけが飲めるもので、庶民はワインを水で割ったものか、ポマースワインを飲んでいました。ポマースワインは、醗酵後のブドウの搾りかす(ポマース)に水を加え、搾りかすに残っている幾ばくかのアルコールと糖分を再醗酵させたものになります。古代ローマでは、奴隷や土工には、2番絞りではなく3番絞りのポマースワインを更に水で薄めたものを与えていたそうです。出来上がったワインに加水するにしても、搾りかすに加水し再醗酵させるにしても、ワインが持つ殺菌作用を利用し、水を安全に飲むためにそういった手法が採られていたというのは間違いないようです。

同じヨーロッパでも、北上すればするほどブドウ栽培が難しい(ないし不可能)な土地が増えるため、必然的にワインはより高価な物に…。そういった場所では、庶民はワインの代わりにエール(ビール)を飲んでいました。よくよく考えてみると、ビールは製造過程で水を煮沸(モルトを煮る際に)し、殺菌作用のあるホップを副原料として加えている…つまり、ワインもビールも安全な水分として、文化の中に根付いった…。そんな話を友人の紅茶屋さんにしたところ、「ヨーロッパ(特にイギリス)で紅茶が爆発的ブームとなったのも、お茶に含まれるカテキンの殺菌作用を期待してのものだったんですよ。」と言うではありませんか!

僕たち日本人は、ヨーロッパの人たちの生活習慣を我々のそれと比較した時に、「彼らは、昼間(昼食)からお酒を飲む」ですとか、「食事中にワイン(ないしビール)を水代わりに飲んでいる」などと言ったりしますが、これが意味することは、「日本人は伝統的に、食事をする際には(日本)酒を必ずしも飲んでいたわけではない…(どちらかというと、“飲んでいなかった”の方が正しいかもしれません…)。そして食事中は、お酒以外のもの(味噌汁のような汁物かお茶など)で水分を摂取していた…。」という事になるのかと。これは、日本酒が非常に高価な物だったという事、日本が総じて安全な水分にはそれほど困らなかったという事に起因しているとオータは考えています。

“パンとワイン”というくらい、ワインが完全に食事の一部を成していたのに対して、日本ではお酒と共に食べるもののことを“おつまみ”や“アテ”などと呼んだりすることからも、お酒と食べ物の間に多少の上下関係のようなものが存在していたことが窺い知れるのではないでしょうか。もちろん、ワインも聖なるものとして扱われてきてはいるのですが、“ハレ”そして“ケ”どちらの場面にも登場するのに対し、日本酒は基本“ハレ”のものだった…という事なのだと思います。

お料理とワインの相性の事をマリアージュ(結婚の意)などと言ったりしますが、この言葉からも、料理とワインがウィンウィンの関係性であったことが明らかなのかと。つまり、彼らが昼食時から飲むことや、ワイン(ないしビール)を水代わりに飲むのは、ワイン(ビール)がれっきとした食べ物であったこと、そして水代わりに飲む必要があったという史実の名残のようなものなのではないでしょうか。

終(とりあえず)

タイトルに“ワイン”という言葉を入れるだけで、こんなにも心に重くのしかかることになるとは思いもしませんでした…。このネタはまだまだ深く掘り下げることができる気もするのですが、オータも頭の夏休みを取ることにしまして、しばらくワインについて考えるのは止めます(笑)。でも、もちろん飲み続けます!

というわけでお盆前後の新入荷案内行きます!

ヴィナイオータを代表するキラキラ家族な、アブルッツォのデ フェルモからは、新しいワイン、コンクレーテ ビアンコ(!)2019と、新しい形のパスタと、ふっくら柔らかに茹で上がる絶品ひよこ豆が届いております!

義父からいきなり18ヘクタールもの畑を受け継いだステーファノ、セラーは18ヘクタール分のブドウを醸造できるほどのスペースもなかったですし(そして売れる確証も…)、ミニマムの初期投資とすべく、毎年厳選したブドウだけ自ら醸し、残りの(大半の)ブドウは近所のワイナリーに売ることにして、ワイナリーとしての活動をスタートします。畑ではビオディナミを実践していますので、コストはそれなりにかかり、ブドウも収量よりも品質を重視しているため、沢山収穫できるわけでもないのですが、アブルッツォは、イタリアでも有数のブドウに値段のつかない地域…(もちろん、質の良し悪しに関わらず…)。ブドウを売ったら、コストを全く回収できない(下手したら赤字…)なのに対し、醸造したのなら薄利だとしてもトントンに収められる可能性は残されている…。

ワイナリーを始めてから4年後の2014年に、アメリカのインポーター(以下Aさんとします)と取引を始めることにしたのですが、Aさんが欲しかったのは、廉価帯のクリーンでナチュラルな味わいのモンテプルチャーノ。まとまった量(年15000本!)を買うという約束のもとに、ステーファノはAさんにコンクレーテ(ロッソ)を特別価格で出すことに。その後も取引は順調に続き、2019年ヴィンテージは、なんと24000本もの予約のオファーがあり、友達だと信じていたAさんの言葉を信じ、ステーファノは約1万本分多めにコンクレーテを仕込みます。そして2020年の1月にAさんから1通のメールが届き、そこには「2020年ヴィンテージは、私のためのコンクレーテは仕込まなくて結構です。」的な事が書かれていたそう…。いきなりゼロって…と少ししょげるステーファノですが、3か月後に再度Aさんから「やっぱり2019年ヴィンテージも要りません。」といった追い打ちメールが…酷すぎる…。

この一件に関してステーファノは、

「あまりにも急な展開に動揺もしたけど、人生は常に学び続けなければいけないし、今回の件も僕にとっては素晴らしい教訓になったと今は思えているんだ。こういった特殊な時期にこそ、心ある人かそうでないかがはっきりと見分けられるのだと。というわけで、なんとかして24000本を捌かないと!時期も時期だし、大変だとは思うけど…。銀行がちょっと協力してくれるのなら、それほど焦らなくてもいいのだけど(笑)。」

こんな話を聞かされて、協力しないわけにはいきませんよね?というわけで、継続的に買い続ける約束をして、Aさんと同じ条件を出してもらうことになりました!今現在絶賛販売中のコンクレーテ ロッソ2017も8月から大幅値下させていただきます!!旧価格でも十分にコスパはあったと思うのですが、新価格でこの内容はヤバいです!

2018年に実験的に仕込んだコンクレーテ ビアンコ、去年の夏に訪問した際にボトリングしたものを飲ませてもらったのですが、クリーンで、素直で、衒いがなく、とても美味しい!「こんな感じのワインで、~な値段だったら、ヒサト興味あるかな?」とステーファノ。低価格帯の白はどれも動きが速く、お客様には常に少ない選択肢の中から選んでいだだかなければいけない状況が慢性的に続いており、非常に心苦しく思っていたのですが、新たな救世主が出現しました!!ガンガン飲んでくださいね!!

パスタはフジッローニ(大きなフジッリの意)とのことですが、どのくらい大きいのか、オータも皆目見当がついておりません…。これからの季節には少々冷やし気味でもステキなレ チンチェ2017と暑い時こそお肉だぁ!という方にはうってつけなワイン、プローロゴ2015もよろしくお願いします!

アリアンナ オッキピンティからは、2019年ヴィンテージSP68のビアンコ&ロッソと香り高いオリーヴオイル、パンタレイ2019が入荷です。SP68、白は瞬殺警報が出ていますのでお気を付けくださいね!

他のプロダクトも絶賛販売中でっす!先日彼女のファーストヴィンテージである2004年のシッカーニョを開けましたが、本当に美味しかった…。

ステーファノ レニャーニポンテ ディ トイですが、2015年がようやく終売しましたので2016年ヴィンテージを、併せてポンテ ディ トイ以上にステーファノの理想のワイン像により近い存在とも言える、ル ガルーの2015年もリリースします!

この2ワイン、ブドウも仕込み槽も全く一緒なのですが、ポンテ ディ トイはタンクの上澄み部分を夏前にボトリングしたもの、そしてル ガルーはタンク下部の澱と触れていた部分をさらに数か月熟成させたものになります。ステーファノは、友人のセラーを間借りして醸造を行っているという事もあり、全てを彼の望む通りに進めるわけにはいかないという状況下で仕事をしています(彼の友人は、全てのワインを収穫翌年の春にはボトリングしてしまうため、春以降はステーファノのワインだけがセラーにある状態に…どう考えても居心地は良くないですよね…)。

2014年、2015年と閉じたニュアンスからスタートしたポンテ ディ トイですが、2016年はすでに良い感じですし、ル ガルー2015年に至っては、現段階でポンテ ディ トイ2015よりも開いているかもしれません。どちらもザックザクですよ!

そしてラ ビアンカーラからは、オータのアイデアから生まれた、ノーマルVer.よりも6~9カ月ほど樽熟成の期間を長く取った、サッサイア スペシャル エディション2018が入荷です!3000本とまとまった本数が入荷していますが、瞬殺は間違いないと思いますし、若干の数量調整が入る可能性があることも予想されます。予めご了承くださいませ!!

*ご紹介したワインは、ブログ掲載時には完売している場合がございます。どうぞご了承ください。

文:太田久人
163 189 265 nuovo20.08.07

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