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2016-10-28

【ほぼ毎】ヴァルテル ムレチニック、バルバカルロ (2016年11月)

Mlecnik

入荷と同時に瞬殺してしまうような造り手と比べて、クオリティ、個性、テンションなど、あらゆる点において遜色があるわけではないのに、イマイチ注目され切っていない造り手がヴィナイオータにもいたりします。一旦世に放たれれば、地味どころかド派手なはずなのに、ヴィナイオータのラインナップという超個性派集団の中にあって、本来浴びるべき注目を浴びていない…そんな造り手たちに改めてスポットライトを当て、彼らがスターダムへと駆け上る足掛かりとしたい!そんな思いから始まったヴィナイオータスタッフが持ち回りで担当するという企画『ほぼ毎月つくり手紹介』、今回は多忙過ぎる関西支部長岸本に代わり私オータが担当させていただきます。

あれっ?『ほぼ毎』って、新入荷の文章だけでイッパイイッパイなオータのことを慮って、他のスタッフが持ち回りで書くことになったのでは???一向に原稿を上げてくる気配のない岸本氏、迫る締切日…そんな中、本社ミーティングでスクランブル発進的に僕が書くことが決まったのですが、そのことを岸本氏に電話で伝えると「斬新ですね…」の一言。いや、斬新って…。

というわけで、レ ボンチエのジョヴァンナの来日までに書き上げなければいけない原稿が2本から3本になってしまいました…(涙)。

そんなこんなで…今回はスロヴェニアの巨人ヴァルテル ムレチニックとオータの理想の頑固爺像を体現するリーノ マーガ率いるバルバカルロです!!

Mlecnik

ヴィナイオータ的アベレージに照らし合わせてみても、異様なまでに特濃感溢れるゾーンといえば、やはりフリウリ(と隣接するスロヴェニア!)という事になると思います。

僕がフリウリを訪ねると必ずみんなで集まっての食事会が催されるのですが、場の中心には必ずスタンコ ラディコンがいて、抜群のフィールドヴィジョンでテーブル全体を盛り上げ(そのためのダシとして良く使われるのがパオロ ヴォドピーヴェッツとカルソという土地…僕は、スタンコが誰よりもパオロのことを認めていたからこそ、そうしていたんだと思っています…。あ~、もうあのシーンを見ることができないのかと思うと…涙。)、ダーリオ プリンチッチ&フランカ夫妻が下ネタを軸にして爆弾を落としまくり、ニューエントリーのフルヴィオ ブレッサンが過激な持論を展開し、どんなネタにも独自のアイロニーを絡ませながらニーコ(ラ カステッラーダ)が適切にリアクションし…場が熱くなればなるほどスロヴェニア語の頻度が高まり、僕が蚊帳の外状態になり…あの濃くヴィヴィッドな色彩が集う場では、座っていても他の人より頭一つ出ている(なにしろ2mありますので)ヴァルテルも独特の感性やユーモアのセンスを持ち合わせているにもかかわらず、もはやアースカラーにしか見えない(笑)。

周りの濃さのせいで地味っぽくなっちゃうのは、ワインだけじゃなく人も…のようです。

ですが、人(ヴァルテル自身)も彼のワインも、外見的要素(他者と比較したりしての)ではなく、その中身(人柄、味わい)をちゃんと知るにつけ、実は全然地味でないことに徐々に気づいていただけるのではないでしょうか。

Mlecnik

社会主義国だった時代に土地(畑)を接収され、(社会主義)当時の“多かろう良かろう”的農業が蔓延したせいで百姓がアイデンティティや数々の知恵を失いかけた上に大量の化学肥料の洗礼を受けた疲弊しきった畑が残され…ゼロどころかマイナスからスタートしたヴァルテルのブドウ栽培家&醸造家としての人生ですが、20歳そこそこで代を継ぎ、その数年後にはワインにおける“高品質”とは畑&セラーでヒトが過剰に介入して生まれるものではなく、自然環境にインパクトを与えない農を心がけ、“自然”の中にバランスや調和を取り戻すことこそが“品質の高いブドウ”を得るためには重要で、そういったブドウをセラーに持ち込むことさえできたのなら、あとはあるがまま醸せば良いのでは?という結論に達します。そんな時に、国境の向こう側にヨスコ グラヴナーという同じような考えを造り手がいることを知り、早速訪ねると、奇しくも時期を同じくしてラ ビアンカーラのアンジョリーノもグラヴナーの門を叩いていたという…。ラディコン、ラ カステッラーダ、ラ ビアンカーラ、カンテ、リスピダそしてムレチニック…約30年前にグラヴナーのもとに集った造り手たちは、(グラヴナー自身も含め)各々の自然観、ワイン観、人生観、哲学、良心に従い各々の道を歩んでいくこととなり、約30年後には各々が唯一無二の個性を備えていた…。

ヴァルテルも試行錯誤を経て現在に至るわけですが、過去と今現在で採用している手法、考えで大きく違う点をいくつか列挙しますね。

ブドウ品種:当時の風潮もあり、クオリティワインを造るためには国際的な高貴(?)品種を!ということで、シャルドネを90年代に植えます。今現在では樹齢的にも25年くらいとなり、当然のことながら良いブドウを生らせるのですが、ブドウ樹自体病気にもかかりやすいとのこと。以降、ブドウを新たに植える際は、土着品種であるレブーラ(リボッラ)、ソーヴィニオナス(フリウラーノ)やマルヴァジーアなどを選ぶように。

収穫のタイミング:以前は完熟よりも過熟を目指していたそうで、その考えが最も過激だったのが1999-2000ヴィンテージあたり。そこから徐々に疑念を持つようになり、2007ヴィンテージから完熟以上には引っ張らないことに。

白の醸しに関して:1999年当時は7~10日くらい醸していたと思うのですが、今現在は3~4日間程度に。

樽:グラヴナーなどからおさがり(笑)でもらったバリックで全てのワインを熟成させていたのですが、よりゆっくりとした熟成を促すべく段階的に大樽を導入。

ビン熟成:徐々に長くし、今現在は最低でも3年くらいボトリング後に休ませてから出荷することに。

近年のヴァルテルの白ワインは、色こそしっかりオレンジではあるのですが、味わいに過激ととらえられてしまうような要素は一切なく、フィネスもあり、本当に危険な飲み心地を備えていると思います。先日はうちの奥様のお誕生日という事で、彼女のリクエストに応えてムレチニック縛りでワインを用意しました。内容はといいますと…

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レブーラ 2009

レブーラ 2001

アンゲル 2007(ヴァルテルのお爺さんの名を冠したフリウラーノで、これは!という年だけこの名前でリリースされます。07以外ですと、1999しか存在しません…。)

メルロー 2007

※現行のラインナップは青字のワインのみです。黒字ワイン(バックヴィンテージ)は、ヴィナイオータには販売分の在庫がございません。ご了承ください。

飲み比べたことでその差が歴然だったのが、レブーラ0109の間にあるブドウの熟度。もちろん8年という年齢差の影響もあるかもしれませんが、01はラ ビアンカーラのタイバーネ99ないし2000やロワールのクルトワのエスキス99やオルノルム2000を髣髴とさせるような香り(どう表現して良いのか…全然フルーティーじゃないんです。蜜のような、そして鉱物的な…)と、どっしりとした重心の低い味わい(でもなぜか後を引く)なのに対して、09の良い意味での軽さといったら…。

このレブーラ09、すでに十分美味しいのですが、控えめな性格のレブーラという事もあり、凄みみたいなものが出てくるのにはあと2-3年はかかるでしょうか。なんにせよ、在庫に投資したとしても全くリスクのないワインと言えると思います。絶賛発売中です!

ちなみにですが、この晩に一番飲まれたワインはアンゲル07でした。香りはエレガントかつ妖艶、本当にアルコールを含有しているのか?と疑わずにはいられないほどの軽さ…。先日、東京でアンゲル99を飲ませてもらったのですが、あまりの若々しさにあんぐりしました…。

そしてメルロー07!!!!ヴァルテル本人をして、今までリリースさせたメルローの中では最も尊大なワインと言わしめるほど。圧倒的な濃さ、そして渋味もあるのですが、それを受け止める要素も備えているので、重さを全く感じることなくスルスル飲めちゃいます。半年くらい前でしょうか、僕の出張中にオータ家が友人宅に夕食にお呼ばれした時にあったのですが、その時に持って行ったワインの1本がこのメルロー07でした。次の日のうちの奥さんの絶賛ぶりたるや…。あまり絶賛とかするタイプでもないですし、オータ家の食卓に登場する頻度が最も高い造り手はラディコンとヴォドピーヴェッツなのですから、考えようによっては最もヴィナイオータワインにスポイルされているのが彼女と言えるわけで、その彼女が絶賛するという事の持つ意味はそれなりのものがある気もして…。今回開けたボトルも、抜栓直後から力を100%解放できるところにまでには至っていませんが、3日目あたりから絶好調です!

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シャルドネ(75%)、ソーヴィニオナス(10%)、マルヴァジーア(10%)、レブーラ(5%)、で造られる、ヴァルテルのお祖母ちゃんの名を冠したワイン、アナ09はヴィナイオータ認定グルグル(Glou Glou…日本語で言うところのゴクゴク?)ワインです!!一言で表現するなら甘露!

Barbacarlo

お次は気高き農民リーノ マーガのバルバカルロです! イタリアを代表するワインジャーナリストのルイージ ヴェロネッリの生前は、(ヴェロネッリ主催ならば…)サロンのようなところにも参加していたのかもしれませんが、今現在はワインを積極的に売るためのアクションは一切おこさず、何十年来の馴染みのお客さんか、僕のように幸運にも彼のワインを飲む機会に恵まれ、直接訪ねることで取引が始まる以外は全く販路を持たないリーノ。僕からしたら本当に不思議でならないのですが、新しいヴィンテージがリリースされた途端に前のヴィンテージの売れ行きが悪くなり、それが彼らの場合だと、つい先日まで1989年という25年以上前のヴィンテージでさえも普通にオンリストしていたという…(言わずもがなですが、最終在庫は弊社がすべてかっさらいました)。リリースされてから25年以上経っているのだから、蔵出し価格自体も若干プレミアム的なものにするかといえば、全くその気もない。リーノ曰く、

「消費者ほど賢い者はいない。2007や2010年のように素晴らしい年のものは、ほどなくセラーからなくなる。長くセラーに残るものにはそれなりの意味がある。そういうわけだから、俺が(その売れ残ったワインの)値上げなどするわけにはいかんのだ。」とのこと…。

僕が言うのもなんですが、売れ残っているものも普通に美味しいんですよ。というか、むしろそういうワインこそ早目に飲んで、2010年のようなワインはセラーの奥底に眠らせるべきで…。バルバカルロで言うなら、1994、1996や2000年などは、それこそこれからの季節トリュフとかとも面白いのではないでしょうか。ぶっちゃけちゃいますが、近年のガラス(ボトル)、コルク等のマテリアルの値上がりに加えて、収量的にもアベレージに遠く及ばない年が続いているため、直近のヴィンテージの価格はどんどん上がっていて、ほぼ据え置きとなっているバックヴィンテージのほうが安いという逆転現象が起きています!リーノ、どんだけ商売下手なんだ!(笑)

というわけですので、弊社としては割合的にバックヴィンテージを多めに買い、現行の価格を抑えるという企業努力をしていたりします。まだリリースさえしていない2013年ヴィンテージなどは、そのヴィンテージ単体ですと酒屋さんへの販売価格がすでに赤字に限りなく近いという…。

Barbacarlo

イタリアでも“知る人ぞ知る”的存在のバルバカルロですが、(しっかり)知っている人たちの間、特に同業の造り手たちにとってはカリスマ的存在だったりして、彼らを訪問すること自体がとっても緊張を強いられるイベントのようなのですが、とある造り手は何を話してよいのか分からなくなり、とりあえず僕の友達だと言ってみたところ、リーノは笑みを浮かべながら、「おお、イザート(ヒサトのイタリア語発音)か。あいつは俺の友達だ。それなら、お前も俺の友達だ。」と言われたそうです(笑)。

新しいワインがリリースされれば必ず電話がかかってきて、「イザート、今度はいつうちから引き取りするんだ?在庫がたくさんあるだと?もっとじゃんじゃん売れ!」と叱咤されるのですが、そんなこと言われる唯一のお客なのでしょうし、僕自身その事を非常に光栄に思っています(笑)。

そしてクリスマス前には必ず挨拶の電話をくれ、僕の家族が元気であることを確認して自分のことのように喜び、子は宝なのだとしきりに僕を諭すリーノ…僕の感情を一言に集約させるなら…リーノが大好きすぎる!

というわけで皆さん、彼が星になる前に彼のワインを本気で評価(愛)してあげてください!!

モンテブオーノの2010が終売となったので、満を持してバルバカルロ&モンテブオーノの2011&2012をリリースします!

他何を書いて良いか分からないので、オータ的各ワインの印象を一言で!!

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バルバカルロ1993 美味しい!やはり果実の強さ、長さという点ではモンテブオーノやロンケットの上を行くなぁ。

バルバカルロ1994 まだ生き生きとした炭酸が!飲み頃感満載。

バルバカルロ1996 ボトルのせいかおとなしい…。まだ固いってこと??ある意味凄い!

バルバカルロ2000 うまあああああい!トリュフとかと合わせるのならこれかな?2000と2002はリーノ的にも期待していなかった分、その成長ぶりに驚いたワインだそう

バルバカルロ2004 ボトルネックに付いているタグにも「苦くドライ」と書いてありますが、まさに!プリミティーヴォでも入っているんじゃないかってくらいの香り。

バルバカルロ2010 長く複雑、グランデ(偉大)!

バルバカルロ2011 2010よりもいい意味で分かり易い味わい。若干(ほんとに若干)甘味もあるので、甘いソースのあるようなお肉料理といいかも。

バルバカルロ2012 うわああああまるで梗ごと醗酵させたかのような青いタンニンが!(笑)売りに出しますが、ちょっと置いておいたほうがいいかも(爆)。

モンテブオーノ1989 まだ若い!

モンテブオーノ1993 バルバカルロのワインとしては酸味がしっかりしている年だからなのか、二酸化炭素が若干あるからなのか、天候に恵まれなかった年の割には若さを保っている。93年の3つを比較すると、熟成感的にはバルバカルロ<モンテブオーノ<ロンケット(若々しい→熟成感がある)

モンテブオーノ1996 ワイン自体の佇まい&状態的には93と似ているが、やはり濃度はこちらが上

モンテブオーノ2011 バルバカルロ2011よりも味が出てるかも。

モンテブオーノ2012 バルバカルロよりも渋い!

ロンケット1993 全ワインの中で、これが一番熟成感があると言えるのかもしれないが、なんにせよまだまだフレッシュ!

ロンケット1994 1993の3ワインに次いで熟成感があるかも。

 

 

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