【新入荷】2016年12月 その2
前回の文章にも書きましたが、これ飲まずに2016年終われるか~い!な、ラディコンのワインが届きました!
今回のワインの引取りと後ほど登場しますお酢に関するやり取りが、スタンコと直接話す最後の機会になるとは夢にも思いませんでした…。彼がもはやこの世に存在しないという事実に対して僕自身まだリアルに捉えきれていない部分が若干あったりするのですが、次回フリウリを訪れた際にその現実とそれがもたらす空虚感を嫌でも突きつけられるのかと思うと…。とはいえ、遅かれ早かれ死は僕自身にも訪れる、言い換えるのなら限りある人生を生きているわけで、その事をより強く自覚することは、空間、時間瞬間、共に過ごすヒト、モノに対してより真摯に、より一期一会的に向き合う事につながるのだと信じていますので、しっかりとスタンコの死という現実を受け入れてきたいと思います。
息子サシャのアイデアで生まれた、“醸しの白ワイン入門編”ともいえるスラトニック&ピノグリージョは2013年の最終在庫が、そしてラディコンというワイナリーの根幹を形成しているとも言える3ワイン、オスラーヴィエ、リボッラ、ヤーコットもヴィナイオータ的現行ヴィンテージの2006の最終在庫(恐らく今秋09がリリースされるのかと…)、白のリゼルヴァにあたる“時間を超越した”という名を持つオスラーヴィエ フオーリ ダル テンポ01(以下FDT)とメルロー01も再入荷しています。そしてスロヴェニア語でピノ ネーロを指すモードリは新ヴィンテージの04が届きました!03ほどの強さはなく、僕たちがイメージするピノにより近い雰囲気を持ったワインです。そしてそして前回大大好評でした、オスラーヴィエ03の500mlの最終在庫も届いています。
さら~に!!!オスラーヴィエ03よりも更にセラー深部に眠っておりましたバックヴィンテージものをようやく発掘出来まして、全てかっさらってきました!!!!!!!!今回新たに入ってきたのは03~97年までの5ワインになりまして、内容はといいますと…
リボッラ03(500ml&1000ml):オスラーヴィエ03同様、濃いのに軽い…サ・イ・コ・ウです。今夏訪ねた際、「リボッラの03の500mlなんだけどさ、1200本取っておいたつもりだったんだけど、セラー漁ったら2400本出てきて…なんであんのかさっぱり分かんなくて。」とスタンコとサシャが口を揃えて言っていたのがちょっと面白かったです。とりあえず半分の1200本を引き取ってきました。残りの1200本も当然キープしております!
オスラーヴィエ2000:FDT2000の弟分的ワインとでも言えば良いのでしょうか。FDTには、より厳選したブドウを遅摘みしたものが使用されています。2000年は非常に暑い年だったという事もあり、ノーマル オスラーヴィエでも圧倒的な果実味を体験することができます。今最高に美味しいワインのひとつ。つい先日開けたボトルは見事にお酢、それも最高に美味しいお酢になっていました…コルクのせいだとは思うのですが…。そんなことも起こり得るという事も一応頭の片隅に置いておいてください。そのままお酢としてお使いいただいてもいいかもしれませんよ(笑)。
リボッラ ジャッラ1999:恐らくですが、今回届いた白の中で最も力を開放しきれていないワイン&ヴィンテージはこれなのではないでしょうか。17年という時が経っているにもかかわらず…凄いと思いませんか?ムレチニックのシャルドネ99とかもそうなのですが、まだ澄み切っていないというか、もっとピュアになれそうな気がするというか…。今後どう変貌していくのかが僕でも全く想像できないミステリアスなワインです。
オスラーヴィエ リゼルヴァ1998:あれ、これって酸化してるんじゃない?って香りから始まることがありますが、ご心配なく。試しにグラスをブンブン振り回して、これでもかっ!てくらいワインを空気に触れさせてあげてください。18年前のワインとは思えないほどに若々しくトロピカルな果実の香りが出てくるはずです。つまり酸化ではなく、還元しているんです!キュートさ、エレガントさという点では、他のワインよりも頭一つ抜け出ている気がします。
オスラーヴィエ リゼルヴァ イヴァーナ1997:1997年生まれのラディコン家の末娘イヴァーナの名を冠したリゼルヴァ。僕がフリウリを訪ねた際は必ずみんなで集まって食事会が開かれるのですが、このワインがオフィシャルにリリースされる遥か以前、そういった会にはほぼ必ずスタンコはこのワインを持ってきていました。リボッラのリゼルヴァ イヴァーナのほうは、当初から素晴らしい将来を予見させる味わいがあったのですが、オスラーヴィエはまあまあ気合の入ったやんちゃぶりで…。その揮発酸の高さから、ラ カステッラーダのニーコやダーリオ プリンチッチからは“お酢”呼ばわりをされていたこのワインなのですが、あっ!!!っと驚くような美人さんに成長しました。
1995年にバリックの横部分に穴を開け、それを縦置きにしたものを醗酵槽としてリボッラ ジャッラに対して実験的に醸し醗酵を始め、96年は雹害で生産量はほとんどない状態なのでカウントされず…ということですと、1997年ヴィンテージ以降からラディコンは醸した白を世に出し始めた、ということになるのかと。
醸す前の時点で、グラヴナーと共にこの地域の偉大な白ワインの造り手としての名声を獲得していましたから、彼らのラディカル&ドラスティックな方向転換はイタリア ワイン界に大きな波紋、動揺を巻き起こしたのではないでしょうか。ワインが国の歴史文化の中に完全に同化してしまっているイタリアのような国では、自分の見てきたものこそ真実だと信じて疑わない人が多く、戦後に導入された技術革新によって生まれたフレッシュ&フルーティで濁りもなく色調の淡いものこそ白ワインだとする風潮に対して疑念を持てる人が非常に少なく、「色が濃い白=酸化している」と短絡的に断定してしまう人が多かったように僕自身感じていました。
逆に僕を始めとする日本人は、ワインを文化として持ってこなかったために、「(自分はワインを)知っている」と極端に思いすぎている人が少なく、なぜ色が濃かったり若干の濁りがあったりするのか、その逆になぜ色がほとんどなくて濁りの“に”の字もないワインがあるのかをこちら側が誠意をもって伝えれば聞く耳をもってくれる、という状況があったような気がします。
とはいえ、醸した白であったり、ナチュラルな造りがなされたワインが色々輸入されるようになってきた2000年代前半、色も香りも味わいも今まで体験してきたものと全く違う(変わっている)という理由からなのか、それらのワインのことを人によっては愛情を込め、そして人によっては嫌悪感を滲ませながら“変態ワイン”という言葉が使われていて、僕自身その言葉に大きな違和感を感じていました。
ワインもヒトも最終的には中身で判断されるべきですし、見た目が今までその人が見てきたものとは違うからといって“変”という言葉を使うのは、ある種の人種差別と変わらないですよね??偏見が全くない人など存在しないと僕は思っていますが、偏見から比較的自由な立場を取れている人というのは確かに存在していて、そういう人って自身が偏見を持っていること(ないし持っている可能性があること)を自覚している人な気がするのです。
スタンコがこの世を去ったのと、彼が現在のラディコン スタイルへと大きく舵を切った初期のワインが色々蔵出しされたタイミングの重なり具合に運命的なものを感じずにはいられません。果たして、変な色の白を造ったスタンコが変だったのか、それとも真っ当な(健全、ナチュラル、嘘偽りのない)ものを変と呼んでしまう世の中のほうがもっと変だったのか、そんなことを振り返ってみるきっかけにこれらのワインがなってくれればいいなぁと考えています。
そしてこれまた皆様お待ちかね!の、ラディコン グラスも届いています!
フリウリのコルモンズという町にラ スビーダという宿泊施設(これまた素敵なんです…)も持つレストランがあります。僕自身何回も訪れており、料理、ワインの品揃えからサービスに至るまで一点の隙もない、とても素晴らしいお店なのですが、スペシャリテのひとつにお酢のシャーベットというのがありまして、これがまたすごく美味しいんです。
ラ スビーダの主人ヨスコ シルク(以下シルク)曰く、「もともとお酢は、食品の保存性を高めるためであったり、水を安全に飲むためであったり、喉の渇きをいやすためだったり、様々な形で我々の食生活に利用されてきた。残念なことにイタリアの多くの家庭でも、サラダに和えるため以外の用途でお酢を利用することが非常に少なくなった。その原因のひとつに、市場に出回る速醸法で造られた粗悪なお酢の存在もあると私は考えている。失うべきでない文化を守るために、私はちゃんとしたお酢を造り始めることにしたんだ。」
お酢造りを始めるに当たり、その当時はブドウ畑を持っていなかったため、信用のおける農家から土着品種のブドウを買うことにします。その農家の名は ・・・・・・・・・・・・・・・・、ヨスコ グラヴナー(笑)。ブドウはリボッラ ジャッラ。グラヴナーは、てっきりシルクが自家用ワインでも仕込むのかと思っていたそうで、お酢造りに使ったと話した時は激高されたそうなのですが、「ヨスコ(グラヴナー)、君はいつも偉大なワインを造るためには偉大なブドウが必要だって言っているよね?だったら偉大なお酢を造るためにも偉大なブドウが必要だと思わないかい??」と切り返したところ、グラヴナーは黙ってしまったそうです(笑)。
今現在は1ヘクタールのリボッラの畑を所有し、言わずもがなですが自然環境に配慮を払った農業を行い、そのブドウを使ってお酢を仕込んでいます。仕込み方法も非常に独特というか、我らがフリウリ!!って感じの手法でして、皮ごとアルコール醗酵をさせ、アルコール醗酵が終わったのを確認した段階でお酢の母(種酢)を投入、約1年間皮ごと酢酸発酵を行わせます。圧搾して液体だけとなったお酢をバリックへと移し、3-4年熟成させたのち無濾過で瓶詰、生産のあらゆる過程で酸化防止剤を始めとする一切の添加物を不使用…。スペック面ではまさにヴィナイオータ仕様、お味も最高です!
500mlと250ml入りは通常のビン口タイプなのですが、100ml入りはスプレータイプとなっておりまして、お料理の仕上げに使うのに非常に便利です!
シルクがお勧めする使い方を列挙しますと、
あらゆる調理法を施した卵料理、アスパラや野草などの入ったフリッタータ、コクや味わいのしっかりしたスープ、麦や豆を煮たもの、グーラッシュ、トリッパ、生ガキ、ウナギやヒラメなど脂の乗った魚類を使った料理、ボレッティ(魚をワイン、酢、コショウと煮たフリウリの伝統料理)、シャーベットやベリー系のマチェドニア、キャラメルないしキャラメリゼした際に味が若干野暮ったいと感じた時にも…とのことです。
皆さんもいろいろ試してみてください!