造り手紹介 Domaine des Miroirs ドメーヌ デ ミロワール

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Domaine des Miroirs (ドメーヌ・デ・ミロワール)の鏡 健二郎です。今回ワインを初めて出荷するにあたり、私なりの言葉でワイナリーについて紹介させて頂きます。

 約6年半生活し仕事をしていたアルザスを離れ、2011年2月下旬より新たな地、ジュラ県の南に位置するグリュス村に移り住み、葡萄畑を購入、妻と共にワイン生産者として生活を始めました。
2001年に渡仏して以来、フランス語や学問としてのワイン造り、そして実際のワイン造りを学ぶためにブルゴーニュ、北ローヌ、アルザスと移り、最終的に辿り着いた先はジュラでした。
 ワイン産地としてのジュラは、概ねヴァン・ジョーヌの土地、として知られています。しかし、そのイメージが強過ぎる余り、その他の事があまり語られていないように感じますが、土壌はジュラ紀に形成された石灰岩の岩盤がベースにあり、立地条件等により泥灰土層、粘土層などが、その割合を変えながら岩盤上に覆い被り形づくられた土地だと言えます。この特徴的な石灰岩、泥灰土はこの土地の持つ個性を際立たせており、その個性が酸化的な熟成をさせた従来ジュラの典型と言われてきたワインや、酸化的熟成をさせない一般的な造りのワインにおいても十二分に反映させられ、また固有性を残せると考えました。そして自らワインを造るにあたり、これらの特徴に非常に魅力を感じたことが、ジュラという土地を選ぶ大きな要因となりました。

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 私たちの葡萄畑はグリュス村を見下ろす広さ約3,2haの単一畑で他の畑から隔離されています。この畑の三方は森に囲まれ、そこには昔ながらの風景が広がります。1950年代まで代々葡萄が植えられていたこの畑は、急斜面を含む立地条件による、仕事の困難さや低収穫量などの要因により、人々は葡萄作りを放棄し仕事が楽に行える畑へと移り、徐々に森に吸収されていきました。除草剤など存在しなかった50年代に栽培放棄され森化していた、そして再び葡萄が植えられた2005年以降も除草剤を一度も撒かれていないこの畑は、私たちが理想としていた環境でした。実に多様な植物が自生しており、折々の季節に様々な花が咲き乱れています。
 その畑は一区画(厳密に言えば小道を隔てて約2,5haと約0,7ha)ですが、土壌は細かい隆起の違いや表土の構成により、幾つかの個性があります。

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 ここに至るまでの長くも短い間、色々な方々に出会いそれぞれの感覚に触れたこと、また今までの仕事先で、生活や仕事を共にすることで得られた多くの経験は、何にも代え難い財産であり、独立するにあたって自分なりのワイン造りに対する考え、スタンスを持つ上で非常に有意義でしたし、今思えば、作業うんぬんよりも、精神面でより多くの影響を受けたように感じます。
私が抱く考えやスタンスは、現在のものを礎としながら今後も良い意味で変化すべきだと考えており、そうなることを自分自身期待してもいます。
 このような経験を通して得られた私の考えは「自分がワインをすべての責任を持って造れる」となった時、ワイン生産者として在るうえでまず最初に「自分たちが責任を持って育てた葡萄のみを使ってワインにする」と言う単純で、そして純粋なところに行き着きました。葡萄の樹、畑の土、自生している草花、気候などを、私たち自身で見て、触れて、実際に畑で汗を流して、そしてそれらのリズムを肌で感じることでのみ、その畑の、その年の葡萄に対するより深い理解を得られ、その先に私たちが理想とする、土地、土壌、年の特徴や個性などが強く反映されたワインがあるのではないかと考えているからです。
 それぞれの区画の特徴、周囲の自然環境、天候、近辺に生息する動植物など、それらの関係を注意深く自らの目で観察することでのみ、それらとの調和を図った葡萄栽培が可能となり、その葡萄から様々な要素が引き継がれたワインだけが、我々の土地やその年の個性を表現するだけにとどまらず、私の思うワインというもの、ここでの生活の在り方やその空気感さえも伝えてくれるのだと思います。

 ドメーヌ名においても、私の姓である「鏡」を意味するフランス語、Miroir(ミロワール)からつけたものではあるのですが、私たちのワインが、先の述べたような理念を写し出す鏡であってほしいという想いでつけました。また複数形としたのは、日本から遠く離れた土地でも、家族・親族等の支えがあり今の私たちが在ること、気持ちの距離は常に近く、という気持ちから来ています。

 現在私たちの畑には4種類の葡萄が植えられています。品種および作付面積は

 シャルドネ  : 約1.5ha
 サヴァニャン : 約1.1ha
 プールサール : 約0.4ha
 トゥルソー  : 約0.2ha

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 実際にこの畑で仕事を始めて以降、除草剤は元より、化学合成された農薬、肥料は一切撒いていません。私の中では有機栽培はあくまで大前提であり、有機栽培で認められている農薬においても、有機栽培認証機関で設定されている限度量を当てにせず、極力少なくするように取り組んでいます。例えば天候の厳しい年であってもその場凌ぎで農薬を使うのではなく、我々の畑に自生しているイラクサなどの植物から抽出した天然のエキスなどを用いて、畑の環境と対話をしながら永続的な栽培を実践することを心がけ、葡萄や畑の健全性や免疫力を高め、最終的にごく少量、時に無くしながらも、前述したようなバランスが保てるような仕事をしていきたいと考えています。
 農業は自然の一部を人が借りて行うものだと思いますし、そこに関わる私たちのアプローチ次第で、その畑は極端に人間本位な空間ではなく、周囲の自然環境と調和した存在へと近づいていってくれるのではないかと考えています。

 初年度となる2011年は、春先から穏やかで、そして6月中旬までの暑さや雨の少なさ・乾燥、その後一転ひと月の間、寒さと雨の日々、と言う具合に非常に両極端な天気を併せ持ち、水不足とうどんこ病に悩まされました。しかし最終的に7月下旬から天候は好転し、8月中旬の猛暑の後も暑さは収穫期まで続きました。収穫自体は9月中旬から休みなく丸3週間を要しました。私たちのワインも終盤の天候から、果実の熟度を感じる暖かみ、現時点では酸を覆い隠すような穏やかさがあり、年のイメージが反映されているように思えます。

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 今までとは違う土地にドメーヌを興し間もないこともあり、農業機具、醸造器具ともに必要最低限の物を揃える事さえ困難ではありましたが、元勤め先から頂いたり、友人生産者達から貸して頂いたり、中古品を手に入れたりすることで何とか収穫にまで辿り着けました。とは言え幾つかの醸造器具は自ら修理しなければならなかったり、古樽を必要数量確保するのにも苦労したりと、カーヴでの仕事には随分と悩まされました。

 当然のことながら、ワインは葡萄が発酵という過程を経て出来るものです。私自身が葡萄からワインに変わる過程に携わる際、すでに様々な要素を自身に内包している葡萄の存在こそが重要で、その葡萄の中にあるものをいかに余すところなく生かし、ワインへと伝えてあげられるか?ということを考えるようにしています。
 2011年の葡萄の質に私なりに満足感を得られたこと、そして初めて仕事をした畑ということもあり、土壌特性の異なる区画ごとの違いを理解するためにも、醸造を出来る限りシンプルにこなす事を心がけました。ワインは全て温度管理をせず天然酵母での発酵・熟成、その後、無清澄・無濾過で瓶詰されています。(未だに瓶詰されていない熟成中のワインも同様の予定)

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 今回出荷されたワインは2011年の一部であり、ここに紹介させて頂きます。
 アペラシオンは全て Côtes du Jura(コート・デュ・ジュラ)になります。

 ・Berseau(ベルソー)2011(品種:シャルドネ)
 樽熟成中目減りした際に補酒を行った、酸化熟成させていない白ワイン。収穫直前の9月上旬に瓶詰。
 ワイン名はフランス語で「揺りかご」「幼年時代」「草創期」「発祥地」などを表す。公に日の目を見る最初のワインであり、飲んだ時に暖かさ、落ち着き、穏やかさを感じ、優しい陽を浴びた揺りかごの中をイメージさせたため。その他3種類のシャルドネは現在もカーヴで熟成中。

 ・Entre Deux Bleus(アントル・ドゥー・ブルー) 2011(品種:サヴァニャン)
 先のシャルドネ同様、樽熟成中目減りした際に補酒を行った、酸化熟成させていない白ワイン。収穫直前の9月上旬に瓶詰。
 ワイン名はフランス語で2つの青の間、言い換えれば空と海(大昔は海底であるため)の2つの青の間に育つサヴァニャンを表現している。空、そして海からの恵みを受けたミネラルを特徴とするジュラの地を表現するのに欠かせない地場品種サヴァニャン。この葡萄と土地が融合し醸し出す独特の雰囲気で、この畑の個性を余すところなくワインに反映できれば、という願いから。

 ・Ja – Nai(ヤ・ナーイ)2011(品種:プールサール)
 葡萄を浸漬、そして圧搾した後、ステンレスタンクで熟成。収穫直前の9月上旬に瓶詰。
 ワイン名は敬意を表しアルザス語から。私自身アルザス語は話さないものの、数単語使っていたうちの一つで “ Yes – No ” を表す。今までのジュラのプールサールにあまり無いタイプであることから、yesだけどno、また自分自身今後への期待・希望から、初年度としての個人的満足度はyesだけどno、など等から。

 今までは私たちのワイナリーやワインについて少々硬いことを述べてきたかもしれませんが、私は人生を楽しく心豊かにしてくれるようなワインを飲むのが純粋に大好きなだけで、生活の中でワインと過ごす時間が長くなっていくにつれて、そのようなワインを自ら造ってみたいという極々単純な欲求が生まれ、今現在ワイン生産者としての自分が在るのだと思います。
 畑仕事など、大変な時も多々あるのですが、畑でひとり黙々と仕事をしていると、急に頭の中がクリアになり気持ちが澄んでいくような、また周りの自然と同化したかのような、気持ちの良い感覚に浸れる時があります。自然の中での葡萄栽培はそれ自体すでに魅力的ですが、このような環境で生活していくことで、様々なことを学ぶ機会さえも与えてもらっているように感じています。
 このようにワインに触れて生きていくことは、私にとっては体で感じられるような喜びでもあり、またワインを通しての出会いや出来事によって得られた様々な想いは、私の人生を豊かなものとしてくれました。
いち造り手としてではなく、いち飲み手として思うのですが、様々なものを我々に平等に与えてくれるワインを、先入観や既存の相対的な価値観などで不平等に評価することは、その喜び・楽しみを減らしてしまうことなのではないでしょうか。出来ることなら少しでもそれらから放れて、我々自身の感性や体で感じることによって、人それぞれの心に触れるワインを見つけて、その喜びや楽しみを人と分かち合うことこそ、本来あるべきワインの楽しみ方なのではないかと思います。また自ずとそこから、新たなことが生まれてくるようにも思います。
 私たちも、皆さんがその中に喜びや楽しみを見出し、そして共に寄り添いたいと思って頂けるようなワインを造っていきたいと考えています。

※本記事は2013-01-31掲載の内容です。

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