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2007-03-14

ラ ビアンカーラ その4 レチョート話

世界最強のデザートワインといっても過言ではないアンジョリーノのレチョート、96から扱い始めて現在2002、途中95年リゼルヴァも出てきたので計8ヴィンテージが入荷してきました。この間、他のワイン同様に製法的にも味わい的にも大きな変化がありました。

“ViniVeriへの道”第1号の方にも書いてありますが、今回はもう少し詳しく書きます。

まず使うブドウですが、I MasieriもしくはSassaiaに使われるガルガーネガの畑で、その年一番ブドウの質が悪い(であろう)パーセルのものを使用します。ここで言う質が悪いというのは、彼が求める完熟具合にまで置いておくと、カビが生えたり、ブドウが破裂し酢酸的な臭いを発してたりする房が多く出る可能性がある状況を指します。こういったリスクがありますので、樹上に長く置かず、どのワインに使われるブドウよりも早く収穫を行います。

若干未熟なブドウは当然完熟したブドウに比べると酸度も高く、陰干しの期間中に酸の失われてしまうレチョート用のブドウには逆に都合が良かったりと、メリットもあったりします。

収穫後、垂直に張られた網に房をかけていきます。一般的にはござのようなものに広げるのですが、そうすると下の部分が自重で押された状態になってしまい、そこからカビが生えやすくなるため、1房1房上下を入れ替えてあげたりしなければなりません。それに対してアンジョリーノの手法は網にかける時こそ膨大な仕事量ですが、自重でつぶれた部分がないため、干し終わりまでの間何もする必要がありません。

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現在では、ブドウ全体の約4割に貴腐菌が付いたのを確認した段階で醸造に入るそうです。この段階に至るまでに4−5ヶ月干されることとなります。

そして醸造ですが、まずごく少量のブドウをプレスし、容器の中に皮や種ごと入れます。この容器を自宅内のストーブの近くに置き、酵母が活動しやすいような状況を造ってあげます。2月や3月の気温の低さは、野生酵母にとっては過酷な環境なため、まず室内の暖かい環境で少量のブドウを醗酵させ、十分に酵母を培養します。そして酵母が活発になったのを確認した段階で全てのブドウをプレスし、すでに醗酵の始まったスターターと合わせます。

97年までは、醗酵の始まったモスト(皮と種と一緒の)を圧搾し、プレスしモストだけの状態にした残りのブドウと合わせ、大樽に入れ、醗酵を行わせていました。醗酵は気温も低く、モストの糖分も高くと酵母にとっては活動しにくい状況のため、非常にゆっくりと進み、約1年もの間続きます。アルコール度数が12-13%の段階で、醗酵が自然に止まっていました。

98年は生産量の半分をそれまで通りに、そして残り半分のブドウはプレス後、皮や種も一緒に(スターターも入れて)開放醗酵槽に入れて醸造しました(その期間約1ヶ月)。この段階でのアルコール度数は5-6%程で、圧搾し樽へと移し変えて残りのアルコール醗酵を行わせると、アルコール度数15%近い、甘味をほとんど感じないレチョートができてしまいました。初期段階を皮ごと醗酵させたことにより、酵母の培養がうまく進み、旺盛な食欲で糖分を食べたためにこうなったのでしょう。甘味こそ弱かったですが、その味わいは従来のデザートワインでは味わえない、“渋味”や“苦味”を備えたより複雑なものとなり、これこそアンジョリーノが彼のレチョートに求めていた要素なのでした。

98年で学習したアンジョリーノは99年から、高アルコール度数になってもある程度の甘味が残るようにと、それまでよりもブドウの干しの具合を強くしました。99年と2000年はアンジョリーノの思い描いていたようなワインになったのではないでしょうか。高アルコール、程よい甘味に、味わい的にそれを切ってくれるタンニンと苦味…あんなに飽きのこない甘いワインはそうないのではないでしょうか。

ただことあるごとにアンジョリーノは僕に、“99年という偉大なレチョートに俺が唯一汚点を付けてしまったとすれば、それはフィルターをかけたことだ”と言っています。99年をボトリングするまでの彼は一般で言われているように、糖分という微生物にとって格好の餌がある状態で、酵母も入ってしまうであろうノンフィルターでのボトリングは難しいと考えていました。まして彼の場合、添加する2酸化硫黄の量も最小限度なわけですし(一般的にデザートワインには再醗酵防止のために大量の2酸化硫黄が添加されます)、そのリスクは従来以上だったわけです。しかし彼はとある時からこう考えました、“醗酵しきったワインは再び動き出すことはない”と。

そして2000年からはノンフィルターでボトリングされています。

2001年と2002年は同じように仕込んだのにもかかわらず、彼が望むようなアルコール度数に達する前に醗酵を止めてしまいました。奇しくもという感じですが、99年と2000年は良年でブドウも健全だったのに対して、2001と2002年は雹害や多雨などの影響でブドウ自体完全にには健全といえず、ブドウの皮の周りの微生物叢的にも酵母が少なかったのかもしれません。こういうエピソードからも、ヴィンテージの特色というのは、ブドウそのものの質(糖分、酸度、エキス分など)のように数値に表せ、目に見えるものだけで構成されているのではなく、酵母やバクテリア、そしてそれらの勢力分布など、目に見えないものにも影響されているということなのでしょうね。

もちろん、培養酵母や酵素などを使えば、毎年ほぼ一定の造り手が望むアルコール度数と甘味を実現できるでしょうし、その段階で2酸化硫黄を入れて細かいフィルターにかければ、もうバッチリというわけです。

つい先日、アンジョリーノはレチョート2003年をボトリングしたそうで、なんと全て2酸化硫黄全く添加せずにとのこと!!!

アルコール度数15.8%に揮発酸も少し高め、ブドウが自発的に生成したSO2も40mg/litter・・・

凄すぎるぜ先生!!!!!

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