ヴィナイオッティマーナ2022【造り手セミナー】ムレチニック
①セミナー動画 (質問コーナー|2:35~)
ヴィナイオッティマーナ2022 P3 DAY2に行われたセミナーのまとめになります。今回来日したのは、スロヴェニア ヴィパーヴァ渓谷にあるヴォルチャ・ドラガにあるムレチニックより当主ヴァルテルの妻イネスと息子のクレメン。以前までスロヴェニアは社会主義の国で、彼らの土地は国の持ち物になっていましたが、社会主義崩壊後はその奪われた土地を買い戻すところからワイナリーを再開させました。
②造り手紹介 (00:45)
ムレチニックの造り手紹介、詳しくはこちらから。
③造り手への質問と回答
Q1. お父さま・ヴァルテルのことは尊敬していると思いますが、ワイン造りについて言い合いになることはありますか?(2:35~)
A1. 言い合いというよりも、いつも議論をしています。例えば、ブドウの剪定についてですが、剪定の仕方で次の年のブドウの成長を決定づける要因の一つとなります。そのことについて、僕から父に質問してみたり、そのことについて父からも質問が帰って来たり、また逆に父から質問が来て、僕からも質問するというようにお互いにたくさんの質問をぶつけて適切な答えを探し合い、共通理解を増やしていくことが、ブドウにとってベストな選択を自分たちができるようになるので、畑でも議論はする必要があります。そこには世代間のジェネレーションギャップや親子間だからどうということはなく、お互いにヴィニュロン同士が会話するように議論するということが常にあります。
もちろん、収穫の時期のようにとても忙しく、短時間のうちにたくさんの仕事をこなさなければならない時に関しては、言い合いをしている暇もないので、僕であったり父が、このケースにおいてこうした方が早く、円滑に進むのではないかと思ったならば、そこは議論せず流しておくようにしています。そうすることで、スムーズ、アウトレスフルに仕事ができることが大切なのかなと思います。
Q2. イタリアとスロヴェニアの境界付近では文化が同じだったり、仲が良かったりなどあるのでしょうか?(10:53~)
A2. 色々な文化が交錯している場所になり、イタリア系の文化、北の方に行くとオーストラリア・ドイツいわゆるドイツ語圏の文化、ハンガリーの文化、ルーマニア等のスラヴ系の文化というような4つくらいの全く異なった言語体系やそれぞれの人種が交錯する場所だったので当然、いさかいや戦争が起こりやすかったり、また、ある部分文化的に強く交わっている場所でもあると思います。例えば、僕らの住んでいる地域はスロヴェニアの中でもかなり西側にあり、イタリア寄りですが、やはり食事はイタリアに大き影響を受けていて、イタリア料理に近いものを食べたりします。また、人種的にもというか性格的にもオープンマインドで、とてもイタリア人的な性格をしている人が多い気がします。それに対して、内陸から東側の方へ行くといわゆるオーストリアやドイツ語圏の何かを引き継いでいる人が多く、ちょっと生真面目で、いわゆるTHEドイツ人ですといった感じできっちりしていてあまり笑わないといった感じの人が多かったりする土地になります。なので、料理的にもオーストリア的、ドイツ語圏的な料理が増えたりします。スロヴェニアという国の中でも結構多様性に満ちていますね。
Q3. スロヴェニア人にとって魅力的な日本人女性はどんな人ですか?また、スロヴェニア人の女性から見て魅力的な日本人の男性はどんな人ですか?(15:50~)
A3. クレメン:仮にも僕の目の前にとてもきれいな女性がいたとして、その女性が全然ワインとか興味がなく、つまらなさそうにしていて、どうしてここにいるのかわからないというか、そういった人が今日、この場にいたとすると僕はどう接すればいいの?と思います。僕は、何よりも同じものを楽しいと、美しいと思える人と時間を過ごせることが、それが、女性であれ男性であれ誰でもいいわけですが、おおむね同じものを素敵だと思える人と話ができたり、時間を過ごせることがこれ以上のものはないと思うわけで、そうでなければつまらないと思うわけです。
だから、いつも日本に来た時に感じているのは、やっぱり皆さんから受ける敬意とか称賛に近いものに囲まれるわけですが、自分たちが正しいと思っている道を素晴らしいという感じで迎えてくれる人たちと過ごすことは本当に代えがたいものです。
イネス:男性について聞かれているのなら、私は興味ありません。既に1人の男性しか興味がないので。人・国民について聞かれているのなら、本当に日本は素晴らしい国民性というか国だと思います。2007年に初めて来日しましたが、その時に感じたその印象と全く同じもを感じます。思いを新たにしたといいいますか。例えば、今回のオッティマーナでのチームの連携や助け合いの精神とか、フォローしあい助け合うというのは当然のことながらお互いに敬意があって生まれるものだと思うんです。まざまざと見えるレベルで、可視化できるレベルで体感できる場所というのは本当に素晴らしいと思っています。
Q4. 自分でこんなワイン造ってみたい、やってみたいことはありますか?(26:48~)
A4. 完璧や完全性のあるワインを目指しています。自分たちには「こういう姿を持った理想の究極のワイン」のようなイメージがありますね。でも、僕も父も少なくともわかっていることは、絶対にそこに辿り着かないということです。結局、我々は、常に間違いをしながら修正したりして今までやってきています。だけど少なくとも去年の自分、3年前の自分、10年前の自分より少しだけマシな今の自分にはなっていて、少しずつ完璧な方向に近づいてきていると思います。ただ、相変わらず完璧からは程遠いところにいるなあと思い知らされることもあります。
例えば、新しく畑を作った時も、作った時は絶対完璧なレイアウトだと思うわけで、ここに畝を作って、こういう感じで樹を植えてと。でも実際に作業してみるとトラクターが入れないなんてこともあったりと。なんでこんなことも思いつかなかったのかとか、もっとカーブを描いて作った方が良かったなとか、テラス状にした方が良かったなとか本当に激しい後悔をし、なんでこんなことも気付かなかったのかという連続でしかありません。皆さんも想像していただける通り、一度植えたブドウをもう1回抜いて、樹を植え直すことになるのですが、一度抜いた樹は植え直せないので、完全に作り直すしかないんです。当然、植え直す以外にもブドウの苗木もその自分の土地のその土壌に合っていないものを選んでしまったせいで、結局、苗の代金もその作業も完全にロスとなってしまいます。
全部抜いて植え替えたりすることもあるわけで、そういったたくさんの失敗と悔しい思いをし、そこからじゃあもっとこうしようの連続で今まで繰り返してきました。こうした繰り返しをしてこないことには僕たちが目指す完璧には近付けないんですよね。そういった連続で何かしら新しい経験を積んでその教訓みたいなものを得えて前に進むことでしか自分たちの究極のワインというのは見ることができないんです。例えばやりたいことを100個ぐらい思いついたとしても少なくとも農業の世界においてその100個を実践して、その答えを得ることは絶対にできません。どうしてかと言うと、例えばブドウの苗を植えて、そのブドウが成るのは植えてからおおよそ4年目、5年目ぐらいかかり、そのブドウをワインにしてボトリングした後、僕たちの場合は最低でも4~5年を寝かせてからリリースさせます。つまり、最初にブドウの苗を植えてから何らかのその結実した 果実その自分たちの選択とかそういうものの結実したとしてのワインを実際にそれを賞味できるのは約10年後になります。
それぐらいのサイクルでしかできない仕事なんです。だから100個夢があってもできないんです。じゃあどうするのか言うと、先人の経験や老人の知恵じゃないですがそういったことを聞いたりすることで、そういった先人がこういうことを試してこういう結果があったということ等を聞くことで、できるだけ自分自身にその疑似体験みたいなものをたくさんします。そうすることで、やるべきことやできるだけハズレを引かない方法を核心に最短に行けるような方法を選んでおくことしかできないのです。
しかし、今の時代ってすごく忙しいというか、時間に関するコスト感みたいなものがけっこう上がってきていますし、急いで早い段階で結果を出すことが求められているのが現代の最大の特徴だと思います。残念ながら農業の世界ではそういことは絶対にできません。自然のリズムに逆らうことはできないしその1年の春夏秋冬を長くしたり短くしたりできないですし、自分の成長を極端に人間がコントロールしたりすることもできないのと同様に、ワイン造りが年1回しかできないということは、人生でも限られたチャンスしかないのだと思います。
僕は33歳ですが、70歳まであと37年しかないと考えた時に37回しかワイン造りができなくて、つまり37ヴィンテージしか造れないわけです。ですので、その約37回という限れた人生の中で、どこまで自分たちが理想とすることを液体の中に表現できるか、そこには今までの経験だけではなく、文化や伝統の中に眠っているある種の秘訣みたいなものだったり、老人の知恵等をできるだけ利用すること、自分のものにすることでその最短距離を行く努力をするしかできないと思っています。
④まとめ
クレメンもイネスもすごくまじめというか、どんな質問に対してもすごく丁寧に、お客さんのことを思ってしっかりと答えてくれるなというのが一番の印象です。また、畑での父子の関係が、親子というよりも一種のパートナーのような関係性であることに驚きつつ、そうやってお互いを尊重し合いながら一緒に仕事ができることの凄さ、自分にはできそうにないなと思いました。(担当:嶋津)
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