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2019-08-26

“果実、酵母、アルコールの起源”について

本当は、ワインの起源について書こうと考えていたのですが、またしてもステキな本と出逢ってしまいまして、そこから新たな着想を得てしまいました!というわけで、今回は果実、酵母、アルコールの起源について書くことにしました。

我々が主食としている穀物やイモ類、穀物は種子そのものですし、イモ類はそれ自体が種子なわけではありませんが、どちらも自らが溜め込んだ成分をエネルギー源にして、種の繁栄のために直接的に利用するという点では変わりはありません。つまり、子孫をたくさん残すべく生産したものを、ヒトがその高い栄養価(主に炭水化物)に着目し、それらを主食とすることにしたわけです

に対して、1億3000万年ほど前に出現したと言われている被子植物(実を生らす植物)は、果実に集積させた糖質を、自らが消費するのではなく他者に代償として分け与えることで、種としての繁栄を模索する道を選びます。噛み砕きますと、果実を他者(動物)に食べてもらい、果実中にある種子を糞と一緒に排泄してもらう事で別の場所にまで運んでもらい、願わくばその場所で種子が芽吹き、結果として子孫が方々で増えていく…と言った感じでしょうか。

被子植物はその進化の過程で、果実が完熟した際に鮮やかな色や甘い香りを放ったり、可食(果肉)部分を増やし、糖分を充実させるなど、動物の気を惹くための様々な術を身に付けていきます。当然のことながら、動物の消化器官で種子本体が溶かされてしまうようでは意味がありませんので、十分な固さを持った種皮をも持つに至ります。

昆虫、鳥類、哺乳類などの動物ばかりでなく、微生物にとっても果実は魅惑的な食べ物になったわけですが、その微生物の中からサッカロミセス(酵母!)という狡猾な進化を遂げるものが出現します。サッカロミセスは、エネルギー効率を犠牲にしてまでエタノールを生成し、他の微生物を淘汰し(アルコール消毒というものがあるくらいですから、多くの微生物にとってアルコールは好まれざる存在なのかと…)、果実を独占する技を身に付けます。

酵母を始めとする微生物が果実にありつくためには、果皮がはち切れたり、地面に落ちて一部潰れるなりして、果肉が露出する必要があります。そして、果皮がはち切れたり、地面に落ちたりする果実は、往々にして完熟している…。というわけで、果実そのものが発する香りだけではなくエタノールの持つ芳香性さえも、他の動物たちにとっては、完熟(=栄養豊富)のサインとなっていったわけです。

アルコールへの憧憬(笑)は、なんと1億年以上前の時点で我々の祖先の中に既に芽生えていて、約1万年前※に自ら仕込むようになるまで、原初の記憶としてDNAの中に残っていたという…。(※今のところ、世界最古のアルコール飲料は9000年前に中国で造られたと考えられています。)

次回は、ここ何年か機会がある度にお話してきた“ワインの起源”で行きます!

文:太田久人

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