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2016-12-05

【ほぼ毎】ボルガッタ、アリアンナ オッキピンティ (2016年12月)

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2016年も最後となりました、『ほぼ毎月つくり手紹介12月』は、ピエモンテの「ボルガッタ」と、シチリアの「アリアンナ オッキピンティ」!!シチリアの道中で車を降りて盗み食いしたオレンジの味が忘れられない、つくば本社の萩野です。

■ジュゼッペ ラットの隣人「ボルガッタ」

ピエモンテ州、アスティ地区の南東部に位置する“オヴァーダ”は“ドリアーニ”と並び称される、力強く長期熟成に向くワインが特徴で、フレッシュで早飲みタイプのイメージがあるドルチェットとはまったく違う個性を持つ産地として知られています。
そのオヴァーダのワインを日本に知らしめたのが、故ジュゼッペ ラット氏。2014年に亡くなりましたが、元々の生産量の少なさもさることながら確か10年程前には災害で畑のかなりの部分を失い、その後生産が出来なくなり入手が難しくなったため、日本にあとどれくらい現存しているのか分かりません。ラットのワインの特徴といえば、「素朴」そして「土の味がするワイン」というイメージが、今も強烈に残っています。
ブラインドで出題された時など(よく出されました)は、品種がまったく想像できず、異空間を彷徨っている感じになり、逆にそれがラットであることのヒントにもなりました(笑)。後継者に恵まれず、ワイナリーは閉鎖となってしまったラットでしたが、その隣人であった、エミリオとマリアルイーザが営むボルガッタは、その魂を受け継いでいました。

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ボルガッタは現在ドルチェットとバルベーラを栽培していますが、それぞれに強烈な個性を持ったワインですので、ラットと比べてどうというよりも、ラットから何を受け継いだのかを感じ取ってみてください。
ブラインドで飲む場合は出来れば両方並べて、どちらがドルチェットかバルベーラか当ててみてください!!(普通は分かりますよね・・・?笑)

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ドルチェット ディ オヴァーダ 2011
酒質の強さととてつもない生命力を感じさせるが、フルパワーを出すのにはもうしばらく時間が必要。重心が低くて「土」をイメージさせる抜栓3日目で柔らかいフルーツが出てきます。

バルベーラ デル モンフェッラート 2011
果実味の濃さが分かりやすい。しかし2011の暑さからくるブドウの味の濃さよりも、地味で素朴な深い味わい。こちらも長期熟成を感じさせる。

 

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■シチリアの元気姉さん「アリアンナ オッキピンティ」

私(萩野)が前職の時にアリアンナと初めて会ったのは、ミラノの醸造学校を卒業後に畑を入手した2年目の2005年、当時26歳だったと思います。彼女が慕っていたエトナのF氏に紹介してもらったのがきっかけでした。その時セラーには熟成中のタンクが2種類あって、それがネーロダーヴォラとフラッパート。ネーロダーヴォラはシチリアの多くの地域で栽培されていますが、フラッパートは彼女がいるヴィットーリア近郊でのみ栽培されている補助品種で、ネーロダーヴォラとブレンドするのがこの地域の伝統的なつくり方です。熟成中のワインを飲む限り、瑞々しさとミネラル感は、マッチョでアルコリックなシチリアワインのイメージと全く異なるものでした。
まだ発酵が終わったばかりのワイン、しかもその2種類をブレンドするのかそれぞれ品種ごとに瓶詰めしてリリースさせるのか分からない状態で、「瓶詰めしたら日本に30ケース送って!♪」と頼んだのが、あとから聞いた話、彼女にとっては最初の「注文」だったそうです。今やイタリアでは超人気者で、ワインも引っ張りだこの現在でも、日本の分は現在もしっかりと確保してくれています。
結果として彼女は(予想通り?)、ネーロダーヴォラとフラッパートを別々に瓶詰めしてリリースしました。ネーロダーヴォラの力強さとフラッパートの華やかさというイメージをそれまでは持っていたので、極端に違うキャラのワインに仕上がる事を予想していましたが、どうしてどうして、ネーロダーヴォラの女性的な優しさとフラッパートの芯の強さには他のシチリアのワインからは予想し得ない、アリアンナのワインであるが故の独特の個性が備わっていました。

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女性醸造家がつくるワインって、どことなく優しさというか優雅さが備わる気がするのですが、アリアンナのワインには共通して、黒くて強い中心部分と表面には女性らしい明るさと柔らかさがあると思っていたので、数年前に「アリアンナのワインって、アリアンナそのまんまだよね!」と本人に言ったところ彼女は、『それは違う!絶対にありえない!!』と猛反論されました。(笑)
彼女のワインづくりに掛ける思いとは、その土地(自分の畑)の個性をワインに表現する事であり、それはすなわち人が何かをしたという痕跡をどこまで消す事が出来るか(もちろんワインは人がつくるものなので、人の痕跡がないワインは存在しませんが)、極端な言い方をすれば、自分がつくったワインの中から自分という存在を消し去ることによって、そこに残るのは「その土地の個性」であるという極論なのですが、そのワインの中に自分が現れてしまっては、彼女にとっては非常に不本意なわけです。 そこに私がそんなこと(彼女のワインには彼女そのものが映し出されている)と言ったものですから、彼女は憤慨したわけですが、しかし恐らくそういうものなのかな?という気がしました。
つくり手は自然を尊重し、ブドウが限りなく自然な形でワインに変わっていくことを見守り、可能な限り自分が何かをしたという痕跡を残さないようにする。そういう感覚でつくられるワインであればあるほど、飲み手から見るとそのつくり手がそのままワインの中に映し出されていると…。
「自分の痕跡を残さない」と言ったところで、ブドウの栽培からワインの醸造までの長い月日、可能な限り機械や技術に頼らず、自らの知恵と感性と、何よりも強い思いをもってブドウを栽培し、ワインをつくるわけですから、飲み手が感じるものというのは、他ならぬそのつくり手本人である事はまったく不自然な事ではないと思います。現代のどんな醸造技術を使い、培養技術を使い、美味しい(と味覚的に感じる)ワインをつくったところで、そのつくり手の「人」やその「思い」を感じる事はないのではないでしょうか。
これが、私がこういう(大雑把ですが、もちろんヴィナイオータが扱うワインだけでなく、このようない思いをもってつくられた)ワインが好きな一番の理由だと思っていますし、こういった『人』を感じることの出来るワインを、皆さんにご紹介したいですね。

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SP68 Rosso 2015(ネーロダーヴォラ50%、フラッパート50%)
ネーロダーヴォラとフラッパートのセカンドクラスのブドウをブレンドして、気軽に楽しめるワインに仕上げたもの。「SP68」は、「ストラーダ プロヴィンチャーレ68=」(県道68号線)」の意味で、昔、敷地内を通っていた道路の名前。

シッカーニョ 2013(ネーロダーヴォラ100%)
ネーロダーヴォラはシチリアの超メジャー品種ですが、一般的な果実味のボテッとしたアルコリックなワインとは違い、爽やかな酸と清涼感があります。「なぜ他のネーロダーヴォラと違うの?」と聞くと、「自然につくればこういうワインが出来るのに、マッチョでアルコリックなシチリアワインのイメージに合わせてつくらないと売れないらしいのよね。だから同じようなワインになってしまうの」だそうです。

イル フラッパート 2013 (フラッパート100%)
通常この地域のワインは、ネーロダーヴォラをメインに、フラッパートを補助品種としてブレンドします。華やかで軽いワインを想像していたのですが、ところがどっこい、しっかりとした粘性と独特の風味は脳裏にこびりつきます。

チェラスオーロ ディ ヴィットーリア グロッテ アルテ 2012(ネーロダーヴォラ主体、フラッパートのブレンド)
「チェラスオーロ ディ ヴィットーリア」は、2005年に制定された、シチリア初で現在でも唯一のDOCG。特別に中樽で取ってあったネーロダーヴォラとフラッパートをブレンドし、2007年からつくり始めました 。アリアンナらしいスタイルはそのままに、より芯の強さとエレガントさを感じます。

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(2005年にDOCG「チェラスオーロ ディ ヴィットーリア」が制定され、早速2006年にDOCGをつくろうとしたのかな・・・という樽があったのですが、結果これはリリースされなかった、幻のDOCGの樽です。)

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