数々のエポックメーキングな行為にそこそこの自負を持ち、なおかつその生産規模(量)からしたら考えられないくらいの業界内の知名度&求心力を持つスタンコでさえ、その彼の労苦、リスクに見合った対価を求めつつ、リリースさせるワインを1年以内に売り切ることは非常に難しいようです。
生産量(750ml換算で3万本程度)の8-9割を占める白ワインは、収穫年から6年後にリリースされ、スタンコがこれはと思った年だけ造られる白のリゼルヴァと、”もはやお遊び”だという赤ワインに至っては約10年後にリリース・・・(今年オスラーヴィエ2000のリゼルヴァがリリースされますし、メルローで言いますと、02が去年リリースされましたが、99,01は未だリリースされず・・・)。
樽でキッチリ3年寝かせる(メルローは最低5年)ということは最低でも3年分の樽が必要だということで、そこから3年後にリリースされるということは、ボトル&コルクを購入した上でボトリングして、3年ビンで寝かせるということで、さらに当然ですが3ヴィンテージ分のスペースも必要で・・・。
彼がワイン業界未踏の地を切り開いて、打ち立ててきた数々のマイルストーンとその意味を、僕のような、その瞬間を目撃してきた者が伝え切れていないという部分が大いにあるとはいえ(結構責任感じてます!)、世間の理解&受け入れスピード(それが”一般”から大きく逸脱したものであればあるほど時間がかかるものですよね)に対して、彼自身のスピードがあまりにも速すぎるというのと、彼の造り出すものは全て極端に攻めたものばかり・・・。もう一度書きますが、8割以上の生産量を6年後にリリース、残り2割も2年後に出るどころか10年後にリリース。平均してみると、約7年後(!!!!)にワインをリリースさせていることになります。
昔と比べて、空間と時間に対するコスト感覚がより強くなってきている現代に、こんなことをやるなんて、ある意味狂気の沙汰とも言え・・・。
そんな状況を横目に、”スタンコは俺のワイン造りの師匠だ”と公言してはばからないダーリオ プリンチッチのワインは近年大ブレーク、セラーに常に在庫がない状況が続いています。生産量が少ないということも要因のひとつかもしれませんが、スタンコのワインよりもより普遍性(良い意味でも悪い意味でもなく)のある味わい、ダーリオ自身が重視する飲み心地の良さに加えて、セカンドラインのヴィーノ ビアンコ&ロッソがあることが造り手的(リリースのタイミングが早いので早期コスト回収ができ、セカンドラインを生産することで上級キュベの生産量も減り、1本1本に対する引きが出てくる)にも、消費者的にもポジティブに働いたのではと僕は思っています。
ラディコン自身が負うリスクがあまりにも高すぎることを、僕自身ここ数年来懸念していたのですが、そんな時に救世主が現れます!以前から手伝っていた長男のサシャが、2009年からワイナリーに本格的に参画するようになったのです(それまではスタンコが個人事業主だったのが、サシャと共に会社組織にした模様)。
ワイン造りの上でサシャがスタンコに提案したのが、セカンドラインを造ろうというものでした。
彼もきっと僕と同じような考えを持っていたのだと思います。生産量全てを6年後以降にリリースさせるのは、あまりにもリスクが伴うということ、一部のワインだけでもできるだけ早い段階で現金化し、リスクを軽減するのと同時に、結果生産量が減ることになる上級キュベにより強いスポットライトが当たるようにする・・・。
「いやー、俺はやりたくなかったんだけど、経営に参画することになったサシャの言うことだろ・・・。ま、奴にも少しは責任を負わせなきゃいけないしってことで、やってみることにしたんだわ。とはいえ、俺のワインと厳格な差別化を計るべく、750mlにボトリングさせようと思っているんだ。」とスタンコ。
僕的にはブラーヴォ、サシャ!!!って感じです。
左からサシャ、スタンコの奥さんスザーナ(イタリアの桃井かおり)にスタンコ
2009年は、シャルドネ&ソーヴィニョンで3000リットル、ピノグリージョで3000リットルを仕込みます。マセレーション期間も短く(2-3週間、ピノグリージョはもっと短いかも)、樽で約1年熟成させた後にボトリング。
シャルドネ&ソーヴィニョンは昔使われていた名前が復活、Slatnik(スラトニック、スロヴェニアに持つ畑のある区画の名前)となりました。
前
後
もともとオスラーヴィエに使われていた3種類のブドウをセカンドラインにまわすことで、最も生産量の多かったオスラーヴィエの生産量を減らすことができ、その結果、土着品種のリボッラジャッラ&フリウラーノ(ヤーコット)をよりフィーチャーすることができるようになる・・・良い事尽くめじゃないですかスタンコさん!!
僕自身、その価格の価値はあると思いつつ扱ってはいますが、絶対的な価格として決して安くないものであることは十分に認識しているつもりでした。そしてその内容も攻めに攻めた個性的なもの・・・。
今回のセカンドラインは、価格面でも、味わいの上でも、一般的な”一般”とスタンコの”スタンダード”の架け橋のような存在になってくれると確信しています!!
マッサ ヴェッキアのファブリーツィオも、スタンコの頑固さにしばしば呆れつつも、”ワインが完成”してからリリースさせるというラディコン スタイルには賞賛の声を惜しみません。
畑での仕事、醸造、熟成、特に醸造&熟成という点に関して、彼以上に攻めている造り手は世界中を見回してもほとんどいないのではないでしょうか??
そんなイタリアはフリウリ、フリウリはコッリオのMr.フルスイングに是非会いに来て下さい!
あー、こんなおっちゃんだからやっちゃうんだなぁ、と納得していただけること請け合いです!!