ヴィナイオータかわら版 ~石橋編 その六~
「好み」って年を重ねるにつれて変わってくるものですよね。
数年前まではラーメン屋に行くと、無意識のうちに「大盛り券」のボタンを押していたものですが、いまもその時のクセが抜けず迂闊に大盛にしてしまうと食べきるのにひと苦労。サシの多い肉もしんどくなってきました。身体へのダメージを痛感するとともに選ぶものが年々変わってきます。
なんだか辛気臭い話から始まってしまいましたが、なにが言いたいかというと「人って変わりますよね」ということなんです。
ワインを語るときに必ず出る要素、「テロワール(土地)」「ヴィンテージ(天候)」「ブドウ(品種)」。しかし、大地や自然が結実した果実それだけではワインにはなりません。果実をワインに醗酵させる酵母自体はブドウについているものの、そのままでは鳥や動物に食べられるか、生ったまま干しブドウ化してしまうか、地面に落ちて土に還るかが関の山。もっというと剪定を行い凝縮度を高めなければ、少なくとも普段口にするものより、もっとシャバシャバなものが出来上がってしまいます。ブドウ(樹)に「人」が介在して、収穫され、ひとつの容器に集められ、初めてワインになっていくわけです。
今回ご紹介するのは、そんな「人」の変化や変遷を感じることができたワインです。
≪石橋の飲んでもらいたいワイン紹介≫
銘柄:Rosso di Montalcino Alberello 2015 / ロッソ ディ モンタルチーノ アルベレッロ2015
造り手:Fonterenza / フォンテレンツァ
前述の通り、ワインは「人」が介在して造られるものですが、誰が造っているのか、ということまでは語られても、その「誰」がどういう変遷を辿っているか、ということが話題になることはあまり多くないと思います。
ひとつのキュヴェ、ヴィンテージを一回飲んだだけでわかることはあまりに少ない(誰かにワインをおすすめしたときに「ああそれ飲んだことあるから知ってる」といわれる回数の多いこと!)です。特に開いていない若いヴィンテージを飲んだだけではポテンシャルを計れることはあっても、将来どのように花開くかは予想するのが精いっぱいで、「わかる」なんてことはありません。同じヴィンテージを時間を空けて飲んだり、新しいヴィンテージを飲んだときに前のヴィンテージのことを思い返したりして、少しずつ飲み手それぞれの頭や身体に蓄積されてそのキュヴェや造り手の特徴が形成されていくものだと思っております。
そんな風にワインを飲んでいると、リリース直後のワインであっても、ある瞬間「あ!なんか変わった」と思うワインと出くわすことがあります。理由はいくつかあると思います。
1.ヴィンテージ 天候に起因するもの
2.ヴィンテージ 醗酵やボトリングに起因するもの
3.リリースからはじめて口にするまでの時間経過
4.造り手のアプローチ
理由1.については、いわゆるナチュラルワインでもそうでないものでも、「ヴィンテージ≒その年の天候、ブドウの出来栄え」で語られることが多いのではないでしょうか?しかし、特にナチュラルワインの世界においては、ヴィンテージの特徴はブドウだけでなく、酵母にも着眼しなければならないことが多くあると思います(理由2)。顕著な例でいうと、暑く乾燥した年は果皮についている酵母の数が少ない(活動的でない)上、ブドウの糖度もあがる(≒アルコール度数もあがる)ので、アルコール醗酵を全うできず残った糖分がボトリング後に再醗酵して微発泡したり、あるいは再醗酵せずそのまま残糖として残るというのは特に近年の世界的な気温上昇とともによくみられます。
このケースにとどまらず、醗酵に人的介入を多く施さないワイン造りにおいては、原因ははっきりわからなくても醗酵がいきなりスタックしてしまったり、微細な醗酵が終わらないということがままあります。醗酵がスタックするとアルコール醗酵に関わるもの以外の微生物の活動が優勢になるので、揮発酸が目立ったり例年にはないフレーバーが出るということもありますし、微細な醗酵が終わらないままボトリングしてしまうと酵母がボトル内で活動を続けるので還元的なニュアンスをまとったものが多くなります。特に還元傾向のあるワインは、天候から連想するヴィンテージに対する印象より味わいが開くまでさらに時間を要する傾向があります(9月からヴィンテージを切り替えたトリンケーロのヴィナージュなどは顕著で、2年長く熟成している2016年より醗酵がスムーズに進んだ2018年の方が味わいが開いているということが起こっています)。
理由3.は、流通に起因するところが大きいのですが、ひとつのヴィンテージが売り切れるまで1年以上かかれば、市場に出回るタイミングは、売り切れるまでの時間がかかればかかるほどワイナリーからリリースされるタイミングと時差が生まれていきます。結果、ワイナリーを出発して日本に到着した途端すぐ市場にリリースされるものと、日本に到着してから前のヴィンテージが売り切れるのを待ってから最新ヴィンテージがリリースされるものでは、熟成期間に起因して開き具合にかなり差が出てきます。
前置きが長くなってしまいました。ここまでは、さまざまなワインに当てはまる話かと思いますが、理由4.については「造り手が何かを変えた(※)」ことで、味わいがガラっと変わることがあるように思います。(※「変えた」と書くと、「造り手は変え続けている。君がたまたまあるタイミングで感じ取っただけだよ」と太田に怒られてしまうんですが、あえてこう書きます)
試飲会に行くとテクニカル関連の質問をいただくことがあります。その中で多いのが「熟成容器は何ですか?」「SO2入ってますか?」「マセレーションはどのぐらいしていますか?」という質問です。もちろん私自身も気になる要素ではあるのですが、こういった要素はそうでないアプローチをしたときとの差が顕著なので、色が違ったり容器に起因する香りがある(ない)段階で何か変わったと思える部分ではないでしょうか。
しかし今回伝えたい「あ!なんか変わった」という部分は、上述の要素に起因すると思われる部分にはほとんど差が無いように感じられるのに、「飲み心地」があるヴィンテージからガラっと向上し、それまで抱いていたイメージに反してスイスイ飲み進んでしまうということが「人」単位であるのではないか、ということなのです。
この「あ!なんか変わった」を私が感じたのは彼女たち(※)のビアンコ2018を飲んだときです。(※前置きが長すぎて何の話か忘れてしまった人のために、、フォンテレンツァのワインの紹介です)
それまでの彼女たちの白ワインに対しては、アタックの強さが印象的で、味わいがまとまるまでもう少し時間が必要なのでは?と思うものも少なくなかったと個人的に思っていました。しかしビアンコ2018は、立ち上がりからアフターまでとても滑らかで「なんか変わった」感を強く覚えたのを覚えています。そしてその後リリースされたビアンコ以外の白に対しても同じようなスムーズさを感じましたし、極めつけはペッティロッソ2019で、それまでの醗酵由来の香りも果実も若々しい感じから、果実だけが若々しい状態でボトリングされているのを感じたときに「人」のアプローチが変わっているんだろうな、という印象を強く受けました。
しかし、こういった印象を受けながら彼女たちのブルネッロ(現行は2011年)を飲むと、やはりヴィンテージを経るごとに飲み心地が向上している。。つまり、私がたまたま変化を感じ取ったのがビアンコ2018のタイミングなだけで、造り手は「飲み心地」を追及してアプローチを変え続けているわけです。
さて、この「ロッソ ディ モンタルチーノ アルベレッロ」は、そんな彼女たちが醸造面にとどまらずブドウの「仕立て」にまで着目して取り組んだワインです。ワイナリーを初めて7年目の2005年に植樹したサンジョヴェーゼの仕立てをどうしようか?となった際、レ ボンチエのジョヴァンナに触発され、ワイヤーや支柱を使用しないアルベレッロ仕立てにしました。ワイナリー創設時は吸引力があって樹勢が強くなる(≒結果エネルギッシュなワインが出来る)台木を選んでいた彼女たちでしたが、次に樹を植える頃には樹勢が抑えられるアルベレッロ仕立てを用いるまで考えが変わっていたわけです。その後の進化については前述の通りです。現行はファーストヴィンテージの2015年ですが、2016年以降のワインを飲むのが楽しみでなりません。(そのためにも清き1本をよろしくお願いします!)
ノーマルのロッソ(赤ラベル)と比較すると、アタックが違うのが最も印象的です。ノーマルは果実のエネルギーを感じる鋭角的なアタックがあるのに対し、アルベレッロは滑らかな印象から始まります。興味を持っていただいた方は是非飲み比べてみてください。
着想して樹を植えて、10年たってやっとリリースされたワイン。着想してからの時間の長さを考えると、まるで星を見ているような感覚に陥ります。第一印象にとどまらず、どうか変遷を見守って飲んでいただければ幸甚の至りです。
≪石橋の飲んでもらいたいワイン紹介≫
銘柄:Rosso di Montalcino 2016 / ロッソ ディ モンタルチーノ2016
造り手:Fonterenza / フォンテレンツァ
地域:伊トスカーナ州
ブドウ:サンジョヴェーゼ
希望小売価格(税抜) :4,500円
銘柄:Rosso di Montalcino Alberello 2015 / ロッソ ディ モンタルチーノ アルベレッロ2015
造り手:Fonterenza / フォンテレンツァ
地域:伊トスカーナ州
ブドウ:サンジョヴェーゼ
希望小売価格(税抜) :5,500円
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