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2024-09-02

(新)造り手紹介 Massa Vecchia / マッサ ヴェッキア

造り手:Massa Vecchia / マッサ ヴェッキア
人:Fabrizio Niccolaini / ファブリーツィオ ニコライーニ、Patrizia Bartolini / パトリーツィア バルトリーニ、Vasco Sfondrini / ヴァスコ スフォンドリーニ、Tosca Niccolaini / トスカ ニコライーニ
産地(州):トスカーナ
所在地:Loc. Massa Vecchia 58024 Massa Marittima | GR Italia <map
Web:https://www.massa-vecchia.com/

トスカーナ州の南端グロッセート県のほぼ中央に位置するマッサ マリッティマにあるマッサ ヴェッキアは、1985年にファブリーツィオ ニコライーニが始めた農場。父アルベルトが1972年にクエルチョーラの区画に植えたサンジョヴェーゼとトレッビアーノを受け継ぐ形で、1985年にアリカンテ、アレアーティコ、カベルネを接木し、ワイナリーとしての活動をスタートすることになりました。

1980年代は、テクノロジーが進歩する中でブドウ栽培やワイン醸造においても化学的なものが良しとされており、有機栽培のブドウによるワインなど理解されない、もしくは欠陥のあるものとさえ認識される風潮がありました。しかし、当時からマッサ ヴェッキアの根幹をなすコンセプトは、「母なる大地への愛、そしてそれに付随して、自然に危害を加えるようなあらゆるものを拒否する」というものがあり、妻であるパトリーツィアと共に歩み始めたことでその思いはさらに強いものとなりました。

土壌やブドウの特性をより自然な形でワインに表現できればという考えの元、当初から一切の化学肥料を使わない有機農法を実践し、家畜の飼育~その家畜に与える餌の生産~ワラや残根と家畜の糞尿から完熟堆肥の生産と、これらの全てを自分たちでまかなう循環型農法を実践。ワイン造りでは、ブドウに住む野生酵母のみから栗製の開放醗酵槽でのマセレーションと醗酵を行い醸造を行っています。

(写真)手でかき混ぜられるサイズの開放醗酵槽

イタリア全土で雨が多く厳しいヴィンテージだった2002年、海に近い州南部に位置する自分の土地で造られるワインは、内陸のキャンティやモンタルチーノと比べると果実味が豊か過ぎて飲み心地に欠けると考えていたファブリーツィオは、果帽が浮き上がってきてもすぐにはリモンタージュを行わずに放置するという醸造学的にはタブーとされている仕込みに挑戦しました。ワインをかき混ぜないことで嫌気的、好気的な微生物がそれぞれ最速で個体数を増やすことができ、バクテリアにさえも活動してもらうことでワインに軽さと飲み心地を与えることができると考えたのです。自分の生まれ育った土地の個性を洞察し、そこに自分なりの解釈を加えつつ醸す。これがファブリーツィオが知性派農民アーティストたる所以です。

常に自然や微生物と対話しながらワインを醸すファブリーツィオ。ヴィンテージを経るごとにその手法も変遷しています。

「SO2無添加でワインを造るためには、醗酵時に出来るだけ皮が浮き上がった状態を長くしないことが重要。二酸化炭素の層を醗酵層の上部に作ってバクテリアが繁殖しづらい環境を造らないといけない。そして、特に白はブドウの香りが焼けないように気を遣わなければならない。液体の比率が高いと温度が上がりすぎてしまうが、手でかき混ぜられる程度の大きさの桶ならワインの温度が高くなりすぎないし、マセレーションの状態が長くてもワインの色は濃くならない。風味も守られる。」つまり、電気に頼った温度コントロールをしないだけで温度は重要な要素と考え、自然の力だけで高くならないような造りを実践しているのです。

「技術の部分も大事だけど、すべてはブドウ次第。いかに健全なブドウのみをセラーに持ち込むかという大前提がある。その逆はない。完熟していない状況でブドウを摘むと糖分は十分にあっても果皮上の微生物の状態が整っていないので乳酸菌の割合が多くなる。ブドウが熟し果皮が張ったあと少し緩むことで目に見えないぐらいの細かいヒダができて、そこに酵母が住むと考えている。ブドウの微生物が健全であることが本当に大事。」また、ブドウだけではなくブドウに住む微生物、そして土壌に住む微生物の健全さが重要と考え、フォルナーチェの畑では畝の間をわざと広くとっているといいます。

(写真)風が抜けるような地形になっているフォルナーチェの畑。「谷が空気を抜いてくれるから冷たい空気が溜まらない。遅霜のリスクが少ないからサンジョヴェーゼを植えられる」位置的にアイア ヴェッキア(石灰質)とクエルチョーラ(ガレストロ)の間にあり、土壌的にもそれぞれが混ざっている。フォルナーチェは二つの文化が交わる場所と捉えている。

●アイア ヴェッキアとマッサ ヴェッキアの代替わりについて
より自給自足に近い生活へシフトするため、道路も舗装されていないような山奥に家を建て2008年から住み始めることにしたファブリーツィオは、2009年に娘であるフランチェスカにマッサ ヴェッキアを譲り、自身は醸造責任者としてマッサ ヴェッキアに関わるものの山奥での生活に傾倒していくことになります。「アイア ヴェッキア」というその地は標高約650mにあり、サンジョヴェーゼの栽培限界を超えていると考えたファブリーツィオはピノ ネーロを植えることしました。ピノ ネーロの繊細な香りを活かすためには、木のニュアンスが邪魔になると考え、醗酵層は友人であるカルソの石工が造ったものを用い、質の良い使い古しの樽がないので、ダミジャーナ(約50Lの大瓶)で熟成させることに。2015年がファーストヴィンテージで、樹齢が高まった2017年以降生産量が増えていきます。

(写真)カルソの石灰岩をくり抜いて造られた発酵槽。ピノネーロが植わる畑の土壌も石灰質

(写真)熟成中のワインが入ったダミジャーナ

2018年にフランチェスカがマッサヴェッキアから離れることになったのをきっかけにファブリーツィオはマッサヴェッキアに戻り、妻パトリーツィアと息子ヴァスコ、娘トスカとともに農場の運営を行っています。ファブリーツィオが総監督、パトリーツィアはチーズ造り、ヴァスコは事務回りの仕事と畑の兼業、トスカはセラー仕事をファブリーツィオと一緒にしており、トスカの夫は畑仕事を手伝っています。「フランチェスカが離れることになってから、チームでマッサヴェッキアの仕事をしていくことになったけど良い感じでできている。俺らみたいな欠点だらけの人間は埋め合っていかないと」とファブリーツィオ。

●クエルチョーラとフォルナーチェの区画、赤のトップキュヴェについて
2003年以降、ワイナリーを始めた区画でもあるクエルチョーラ(標高約220m)で造られる「ラ クエルチョーラ」が赤のトップキュヴェでしたが、近年の気候変動とともにファブリーツィオの考えが変わっていきます。歴史的に適地と認識されてきた場所では、特に黒ブドウの糖分レベルでの完熟と種が完熟するタイミングが合致しないと感じ、2005年ごろから伝統的にはブドウが植えられたことのない標高の高いフォルナーチェという区画(標高約500m)にサンジョヴェーゼを植え始めます。

かつてフォルナーチェの区画で造られたワインは、標高の低いベルッツォ(標高約180m)のブドウとブレンドする形で「ベラーチェ」としてリリースされていましたが、樹齢10年を超えて質の高いブドウが獲れるようになった2016年を最後にベラーチェを造ることを止め、フォルナーチェのブドウ単体で「ポッジョ ア ヴェンティ」という名前でリリースされることになりました。2016年以降は、ポッジョ ア ヴェンティが赤のトップキュヴェという位置づけになっています。

クエルチョーラの区画のサンジョヴェーゼとアリカンテは、2020年の収穫を最後にヴェルメンティーノとマルヴァジーア ネーラに植え替えられました。将来的にはアリエントやロザートの生産量が高まることになっていくと思います。

●以前に掲載していた造り手紹介はこちら
造り手紹介 Massa Vecchia / マッサ ヴェッキア(2018年3月版)

●ワインラインナップはこちらから
ヴィナイオータECサイト / マッサ ヴェッキア

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