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2021-08-06

造り手紹介 L’Acino / ラーチノ

造り手:L’Acino / ラーチノ
人:Dino Briglio Nigro / ディーノ ブリーリオ ニグロ
産地(州):カラーブリア
ワイン:Raglio dell’Asino、Mantonicoz、Asor、Chora Rosso、Ceci n’ est pas un magliocco、Toccomagliocco…等
所在地:Contrada Prato – 87018 San Marco Argentano | CS – Italia Map
Web:http://www.acinovini.it/

北カラーブリアのサンマルコ アルジェンターノという人口約7,000人の小さな村で、元々ブドウ栽培やワイン醸造の仕事に関わってこなかった若者3人によって2006年に始められたラーチノ。

カラーブリア州は東と南をイオニア海、西側をティレニア海に挟まれる形の細長い半島です。中央にはアペニン山脈が縦断しており、海岸線は600kmにも及びます。海から30~40キロで2,000m級の急峻な山岳部に達し、平野部は全州土の9%ほどしかなく、そのほとんどは海岸線にあるため、農業をする上で効率的な産地とは言えません。それでも、古代から栽培されるブドウと恵まれた気候によりワイン造りが発展し、1600年代後半に最盛期をむかえます。

しかし、第二次世界大戦後の移民政策によって多くの人々をヨーロッパ諸国や南米(1900年代初頭にはアメリカが多かった)に送り出して人口が少なくなったことが、カラーブリア州の労働力だけでなく農業文化を消失させました。1960年代に入り、人口増加に合せてイタリア全土で農薬や農業機械が一般的に普及し、広く導入されるようになり、ワインの生産量もピークをむかえます。

ブドウ畑はより作業効率の高い畑が重要視され、低コストでワインが生産される産地も、南イタリアよりも平野部の多い中部や北部へ移行していきます。平野部の少ないカラーブリアのワイン造りは徐々に衰退していき、それまで雇用を担ってきた大きな協同組合ワイナリーが倒産する結果へと繋がっていきます。

ディーノが生まれ育ったコゼンツァ近辺も人口減少が激しく、昔から栽培されてきたブドウ品種や栽培方法などを知る人はほとんどおらず、自分で文献を調べるか、今でも畑を続けている高齢の栽培家に聞くことしか、彼が知りたい情報がない状態でした。しかし逆に考えると、人口が少なくなったことは、大規模農業どころか農薬を使う必要がなくなり、大量生産・大量消費を目指した工業的なプロダクトを生産する必要がなくなったことを表しています。

そうした時代背景の中、ディーノ(当時32歳)はナチュラルなワインの造り手たちの考えや生き方に感銘を受け、彼らと同じように自然に敬意を払い、自分達の土地を表現したワインが造れないかと考えワイナリーを始める決心をしました。複合的な農業が基本である彼らの地域では、一つ一つの区画が小さいことが特徴です。

高齢になり必要最低限の生活をしている栽培家は小さな畑でブドウを栽培して売ってもお金にならず、その畑を売りに出しても大したお金にならない現状があり、そのまま耕作放棄されてしまうケースが多いため、まずはそのような耕作放棄されていた畑から購入。20~30年間放置されていたブドウは人間の力では元に戻すことができないため、植えられていたブドウを抜くところから始めました(現在自分たちで植えた自社畑は9ヘクタール)。

生き残っていた現役の古い樹齢のブドウを含んだ、借りている畑は計7ヘクタールあり、標高300~800mの様々な場所に点在する形で合計16ヘクタールの広さがあります。

それぞれの畑の周りには色々な果樹や作物が農薬を使わずに育てられていたり、昔からのやり方の小規模な牧場があったり、林や森が人の手が加えられていない自然な姿で残されていたりと集約的な農業(同じ作物が集中して植えられている)とは無縁な環境であるため、農薬などの薬剤に頼らない彼らの農業を実践する上で理想的な環境といえます。

生産量は年間40,000~45,000本ほど。畑ではボルドー液のみを使用し、セラーでも二酸化硫黄以外の添加は一切行わず、二酸化硫黄の使用量も年々減らす努力をしています。

<ワインラインナップ>

●Chora Bianco(コーラ ビアンコ)
品種:マントニコ主体、グアルナッチャ ビアンカ

「さわやかテイスティ♪」
コーラ ビアンコは、標高300mのところにあるディーノ自身で2007年に植えた区画のブドウを収穫、ステンレスタンクにて皮や種ごと醗酵を行い圧搾後、またステンレスタンクに戻し、数か月間醗酵の続きと熟成を行ったワイン。コーラは古代ギリシャ語で「田園風景」を意味し、ギリシャ時代に都市の周りにある田園をイメージして名付けられました。

●Giramondo(ジラモンド)
品種:マルヴァジーア ディ カンディア

「世界を旅するブドウ!」
フレッシュな果実の香り漂うマルヴァジーア ディ カンディアはギリシャのクレタ島(昔の呼び名がカンディア)を起源とし、島伝いにイタリアに入ってきたと考えられ、古くから華やかな香りで人々を魅了し続けてきました。ジラモンドはイタリア語で「世界を旅する人(モノ)」という意味で、今やイタリア国内だけでなく世界を旅しているマルヴァジーアをイメージして名付けられました。標高600mの約1ヘクタールの畑で栽培される樹齢15年のマルヴァジーア ディ カンディアから造れられるジラモンド。ステンレスタンクにて醗酵と熟成。

●Les Temps des Fleurs(ル タン デ フルール)
品種:グアルダヴァッレ

「花の時代!」
前ヴィンテージまではフォルセ ソーノ フィヨーリ(多分、花なのでしょう)という名前でリリースされていたこのワイン。2016年より「ル タン デ フルール 花の時代」という名前になりました。ちなみにルタンデフルールは、全世界で1億4000万枚以上のレコードを売り上げたダリダという女性シンガーの曲名です(映画ゴットファーザーにも楽曲を提供)。ダリダ女史はエジプト出身のイタリア系フランス人(エジプト生まれのイタリア移民、最終的にフランスに帰化)で、カラーブリア出身の家系ということで地元では伝説的スターとして知られています。

ル タン デ フルールは、「谷を見よ!」という意味を持つグアルダヴァッレというブドウ品種(レッジョ カラーブリア原産)を収穫、ステンレスタンクにて皮と種ごと数日間の醗酵を行い、使い古しの木樽に移し換え、さらに醗酵の続きと熟成を約12か月間続けた後、瓶詰めされたワインです。特徴的な酸を持ったこの品種は現在この地域でもほとんど栽培されておらず、ディーノも地元の農業研究所に3列のみ残るブドウを分けてもらっています。将来的には他の品種に接ぎ木して、自分の畑でも栽培する予定。

●G(ジー)
品種:グアルナッチャ ビアンカ

「わずかに残る Gの痕跡!」
カラーブリアのコゼンツァ以外ではラツィオ州でわずかに栽培される程度で、ほとんど絶滅寸前と言っても過言ではないグアルナッチャ ビアンカ。南仏のグルナッシュ ブランと同系と考えられますが、はっきりしたことは分かっていません。ディーノ自身はこの品種が瓶詰めしてから味わいが開くまで時間がかかるけども、開いた時には他のワインと違った素晴らしさがあるので、熟成のポテンシャルがあると考えています。標高600mで栽培されている樹齢60年のグアルナッチャビアンカを収穫、2~3日間皮や種ごと醗酵させ、使い古しの樫の樽(2017年からはアカシアの樽)にて約12か月間醗酵の続きと熟成、瓶内で12か月間の熟成を行ったワインが「G」(グアルナッチャの略)です。

●Mantonicoz(マントニコス)
品種:マントニコ ピント

「見たことがない。。」
3000年前ヨーロッパで初めて法律が明文化された街、サルデーニャ島のロークリで、マントニコからパッシートが造られていた記録が残っている、カラーブリア州でも伝統的な品種であるマントニコ。預言者が予言前に飲んでいたことから「予言者」という意味があります。そんなマントニコのクローンの一種と考えられるマントニコ ピント。粒が小さく収量が少ないこともあり現在ではほとんど栽培されることがなくなってしまったので、ディーノ自身、他の誰かが植えている姿を一度も見たことがないようです。

ワイン名マントニコスは、マントニコの古い呼び名(ギリシャ語)で、このブドウがギリシャから伝播し古くからこの地方で育てられてきたことを表しています。標高600mの畑にディーノが創業時に植えたマントニコ ピントを収穫、8~10日間ステンレスタンクにて皮や種ごと醗酵を行い、一部を木樽、一部をステンレスタンクにて約12か月間、瓶内で24か月間熟成させリリース。

●Asor(アーソル)
品種:マリオッコ

「Rosaじゃなくて!」
イタリア語でピンクを意味するRosaローザを逆から書いてAsorと名付けられたロゼワイン、アーソル。マリオッコはカラーブリア州の内陸部を代表するブドウ品種であり、ディーノがそのポテンシャルを信じて疑わないブドウがマリオッコ。マルケやシチリアでも栽培されており、チロで栽培されるガリオッポの影に隠れてきましたが、近年その存在が注目されています。

マリオッコを収穫、圧搾後皮や種を漬け込むことはなく、果汁のみを醗酵させたワインです。マリオッコには様々なクローンがありますが、皮の色が濃い品種であし、色が抽出されやすいブドウ品種のため、絞っただけで赤ワインのように色が濃くなるヴィンテージもあります。2017年は非常に暑かったヴィンテージで、3月から9月中旬までほとんど雨が降らず、収穫時にはブドウが干しブドウのようになってしまった。ラーチノも収量は半分となってしまったが、力強く濃縮度の高いワインとなりました。

●Chora Rosso(コーラ ロッソ)
品種:マリオッコ

「I Feel Chora♪」
コーラ ロッソは、標高400mのところにあるディーノ自身で2007年に植えた区画のマリオッコを収穫、ステンレスタンクにて皮や種ごと8日間の醗酵を行い圧搾後、またステンレスタンクに戻し、約10か月間醗酵の続きと熟成を行ったワイン。2016年は天候に恵まれ、1年を通してブドウにストレスが少なかったヴィンテージ。出来上がったワインも、素直な味わいとなりました。

●Sputnik 1(スプートニク ウーノ)
品種:マリオッコ

「おじいちゃんとの思い出。」
「旅の仲間」という意味を込めて、ロシアの人工衛星「スプートニク1号」の名前をそのままもらったワイン。トッコマリオッコになる予定だった2012年のマリオッコを樽で熟成させていましたが、いささか樽香が強いと感じたディーノ。2016年に収穫してステンレスタンクで醗酵と熟成を行ったコーラロッソ用のマリオッコを同量ブレンドすることにしました。全量をマグナムボトルに瓶詰めしたのは、750mlに詰めたらおじいちゃんに量が少なすぎると怒られた思い出から。

●Toccomagliocco(トッコマリオッコ)
品種:マリオッコ

「特効マリオッコ!」
ワインは食品であり、しっかりした味わいのワインでも、飲み心地が良く2~3杯は軽く飲めるものを目指すディーノ。トッコマリオッコはその豊富なタンニンが和らぐように熟成期間を長く取っています。標高600mで栽培されている樹齢60年のマリオッコを収穫、ステンレスタンクにて醗酵を行い、500リットルの木樽にて約12か月間醗酵の続きと熟成を行った後瓶詰め、さらに3年間追熟させようやくリリースされます。コーラロッソ用のマリオッコが植えられている畑が「トッコ(小さな区画)」と呼ばれていて、語呂が良いのでトッコマリオッコという名前にしましたが、トッコのブドウは使われていません(ややこしい)。

●Scarpetta(スカルペッタ)
品種:カラブレーゼ(ネーロダーヴォラ)

「小さな靴はいてた女の子~♪」
太田家の子供たちがイタリア語の「スカルペッタ 小さな靴」を理解していたことに感銘を受けて名付けられた。fare la scarpettaはパンでお皿をぬぐい綺麗にすることで、手やフォークでパンを皿に押さえつけると靴の先のように見えたことからそう呼ばれている、らしい(諸説あります)。ネーロダーヴォラのワインだが、ラベルに書くと罰金なので、カラブレーゼと書いてある。穏やかで柔らかなワイン。

●Ceci n’est pas un Magliocco(スシ ネ パ アン マリオッコ)
品種:マリオッコ カニーノ

「どういうこと~!?」
ベルギーの画家ルネ マグリットの1929年の油彩画「イメージの裏切り」に描かれている「Ceci n’est pas une pipe(これはパイプではありません)」という言葉をもじって「これはマリオッコではありません」という名前に。実は、使われている品種「マリオッコ カニーノ」は、マリオッコとは縁もゆかりもない品種。糖度が上がらないからガメイのようなワインにしようと思ったところ、仕込んでみたら、滅茶苦茶酸っぱくて荒々しいタンニンを持ち合わせた渋いワインになりました。

<来日時の質問コーナー!>

●ヴィンテージについて(2016~2019年)
・2016年は、天候に恵まれ、1年を通してブドウにストレスが少なかったヴィンテージ。出来上がったワインも、素直な味わいとなった。

・2017年は、非常に暑かったヴィンテージで、3月から9月中旬までほとんど雨が降らず、収穫時にはブドウが干しブドウのようになってしまった。ラーチノも収量は半分となってしまったが、力強く濃縮度の高いワインとなった。

・2018年は、雨が多かったヴィンテージ。収穫時も雨が降ったためにカビの心配があったが、最終的には満足した収穫ができた。

・2019年は、5月に11月並の寒さになったかと思ったら、その数日後に7月並の暑さでブドウの生育が心配だったが、6月に入って気候が安定してきたので、落ち着いた気持ちで日本に来ることができた。

●ワインのこと
・ディーノのお爺ちゃんは2010年に亡くなったが、まだ生きていた頃自分が造った初めてのワインを飲んでもらったことがある。まず、最初に言われたのは「色が濃すぎる!」。1980年代まで量り売りが主流であったこの地域では、一般的にマリオッコは短めのマセレーションで色を薄く、飲みやすく仕上げるため、お爺ちゃんからは「こんなの売れるのか??」と言われた。

そして、「量が少なすぎる!」。時代的にも750mlはハーフボトルと呼ばれていたほど、食卓に置かれるワインは1500mlが普通と考えるお爺ちゃん、チマチマすんなと怒られたのでした。そんなわけでスプートニクは尊大なワインとしてのマグナムボトルではなく、若い人がザブザブ飲んでくれることを目指してマグナムボトルのみのボトリングとなった。

・2016年から1000リットルの大樽を導入、2019年からは2000リットルの大樽を導入予定。カンティーナ ジャルディーノやブレッサンが頼んでいる樽屋さんにお願いして、地元の桑(養蚕が盛んだった時代のもの)や岩肌に生える山栗の樽を作ってもらっている。

・フルネッタという黒ブドウが1980年代までコゼンツァの空港近くで100ヘクタールほど栽培されていたが、現在では0になってしまった。移民時代の労働力や農業文化が消失、年々土着品種は失われつつある。

●ワイナリーやラベルのこと
・ディーノは大学で現代史を研究していてその世界でも食べていけなくはなかった。絵を描くのも好きだったけど、10年以上描いていない。共同経営者は1人減り(経営方針について揉めた)、今は2人で経営、雇っているスタッフは4人、日本に滞在中1人の奥さんが3つ子の赤ちゃんを妊娠していることが分かって「おおーー、、おめでたいけど、また給料上げなきゃーーー(笑)。」とディーノ。

・ラベルに描かれている「円」は、アーチノ(イタリア語で「ブドウの粒」)、つまりL’Acinoラーチノを意味している。ブドウの粒に土地の個性や気候を詰め込みたい、というディーノの思いからラベルに貼ってある。ラベルのデザインのスタッフの一人がやっている(プロのデザイナーに頼む費用はないので)。

・知人のイギリス人がacinoを「アシノ」と読んだので、ディーノには「asino(ロバ)」に聞こえたことと、「飛んだロバを見たっていうのか?(そんなバカな話はないだろ!)」というカラーブリアの言い回しがリンクして、羽が生えたロバをワイナリーのシンボルとしてデザインしてホームページなどに使っている。衰退している地元でワイナリーを始めようとしているときに知り合いから「無理だから、止めとけ」と言われ、最初はあまり協力的でなかった人たちから「愚か者だと思われている自分たち」を揶揄して、「愚か者にも翼がある」という意味を込めて。

●地元のこと
・一番最近(2018年~)借り始めた畑は標高810mにあり、年々暑くなってきている部分もあるので、出来る限り涼しい畑にもトライしてみたいと考えている。畑は高樹齢のマリオッコが主体で、白ブドウも少し植えられている。将来的にはこの区画のブドウを1つのワインとして仕込んでみたい。

広さは約1ヘクタールで、36本のワインと交換した。1ヘクタールから1.5tのブドウを収穫したとして約1000本のワインが生産できると考えると、カラーブリアでは1人でワインだけで生活できない。逆にバローロやバルバレスコでは2~3ヘクタールの畑があれば一家が暮らせるほどの収入が得られる。だから、土地の価値がないに等しく、耕作放棄されやすい。

バローロの1ヘクタールの畑の価格は2億5千万円なのに対し、コゼンツァで大きな家と1ヘクタールの畑付きで500~600万くらい。だけど、カラーブリアは農薬が必要となった歴史がないので、土壌は汚れていないため畑のポテンシャルは高いとディーノは考えている。逆にバローロなどワイン畑のみのエリアのこれからが心配。

●日本のこと
・「日本に初めてきてどんな印象を持ちましたか?」
―僕たちのワインの哲学を理解しているだけでなく、同じ理念で食べ物や料理を捉え、レストランで提供されている姿がとても印象的だった。

・「日本の食べ物はどんなものが美味しかったですか?」
―どれも美味しかったけど、ラーメンが食べられたのは嬉しかった。鮨は美味しかったけど、わさびは苦手だった。

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