ヴィナイオッティマーナ2024【造り手セミナー】バランコ オスクーロ
①造り手紹介 (00:00~)
ヴィナイオッティマーナ2024 ピリオド1DAY1(1月31日)に行われたバランコ オスクーロのミニセミナーです。今回は現当主のロレンツォと奥様のルイーザの2人で来日していただきました。
バランコオスクーロですが、スペインにおけるナチュラルワイン生産の先駆者と呼ばれる、ロレンツォの父で、前当主のマヌエルが、1979年に家族とともに、スペイン南部アンダルシア州のアルプハラ地方のカディアールという町に移り住み、そこでスタートしたワイナリーです。
現在は現当主であるロレンツォと奥さんのルイーザ、父のマヌエルの3人でワイナリーを営んでいます。
ワイナリーや畑は標高1200m-1368mという高所に位置し、ヨーロッパで最も標高の高い自然栽培のブドウ畑と言われています。畑から北に15kmほどの直線距離にシエラネバダ山脈の3000m級の山の頂上が、南に12kmほど行くと地中海がある、他には類がない環境でブドウの栽培など行っています。
天気が良ければ約100km南にモロッコ、地中海を挟んだ反対の国を見ることもできます。
畑には石が多くある、非常に痩せているのが特徴で、ブドウの生育期間中に雨が降らないのですが、冬に降った雪の、雪解け水が山にしっかりと保水されているので、ブドウ樹が極端な水分ストレスに陥ることなく生育できる環境です。雨が少ないので、農薬散布も基本的には行はず、醸造のいかなる過程でも酸化防止剤を使用しないそうです。
畑があるあたりのエリアはもともと、シェリーを酒精強化する際に使用するアルコール用のブドウの一大生産地域だったそうなのですが、フィロキセラ蔓延後はブドウ栽培を諦め、アーモンドなど別の作物が主な産物になっているようです。ブドウ栽培(ワイン醸造)の歴史自体は長くとも、アルコール用にブドウを栽培してきたという歴史的背景から、原産地呼称のない地域になっています。なので、ラベルにヴィンテージやブドウ品種を明記することができず、代わりに単一品種で醸造したブドウ品種を彷彿とさせるようなワイン名がついています。
②造り手への質問と回答
Q1. 他にはない環境でブドウの栽培を行われていますが、その場所でブドウを育てるきっかけや、その環境ならではの特徴などあれば教えてください。(4:00~)
A1. 自分の父であるマヌエルがこの場所を選んだきっかけや理由というのは、父は自分で選んだというよりは土地が彼を選んでくれたと思っていたようでした。何か導かれるようにして今の場所でブドウ栽培を始めたとも言えるかと思います。
父はシエラネバダ山脈の北側サイドのとある町の出身で、今の場所を買う前はバルセロナで別の仕事をしていましたが、自然に触れあう仕事をしたいと思い、前の仕事を辞めました。ワインを造ることを目的に今の土地を買ったというよりは、たまたま買った場所が、ブドウが元々植わっていたので、ワインを造り始めたという状況だったようです。
ワイナリーと父が住んでいた家は、一つづきの建物に対して数人の所有者がいる状態で、その内の一件に父が引っ越して住むとなった時には、隣の家の所有者たちはワインを造っていました。ですので、父にとってもそこでワインを造るということは不思議ではなかったのだと思います。
フィロキセラが流行する前までは本当にブドウ栽培が盛んな土地で、今自分たちがいるゾーンで15,000ヘクタールぐらいのブドウ畑がかつてはありました。それが今では2,000ヘクタールぐらいの生産面積となってしまいました。今の場所はかつて酒精強化ワインを造る時に利用するためのアルコールを造るためのワインを造っていたエリアで、赤ワインの造り方もしらないような地域でした。かつては今私たちが造っているVino Costaのような、黒ブドウも白ブドウも全部混ぜて、圧搾したジュースを樽やタンクで発酵させたものしか造っていなかったような、特殊な背景のある場所です。ただ、ブドウ栽培においては歴史があって、ある程度適地とされている場所でして、自分の父がブドウ栽培を選んだことに関しては間違っていなかったと思います。
Q2. 30種類以上のブドウを育てているとのことですが、どうしてそんなに多くの品種を栽培されているのですか?(14:12~)
A2. ちゃんとしたブドウ栽培の歴史がある場所にも関わらず、原産地呼称が無かったということ自体、地域としてクオリティーワインを造ろうという意欲みたいなものを持ってやる人達がいなかったゾーンなのかもしれません。
世界の名醸造地と呼ばれる場所は、その土地のポテンシャルを信じて、どういうブドウが合うのかなどを何十代もかけて品種を選んできて今の名声みたいなものがあるのだと思います。しかし、私たちの土地はそういったことがことがされてきませんでした。
そこそこのワインしか、今まで世に出せなかったゾーンだったということは父も気づいていたかもしれません。ただ、そこそこのワインではなく、ある部分で自分達の地域が持つメッセージのようなものをより遠くに届けることができるようなワインをこの土地でも造れるじゃないかと考えたそうです。
ただ、残念ながら今までの歴史をただ継いでいくことだけでは、それを証明できるかどうか分からなかったので、自分でブドウを植える時には、地域の伝統的な品種も植えることもあれば、同じスペインの品種、大学などの共同研究として国際品種のブドウなど。いろいろな品種のブドウを一通り植えてみたそうです。
父自身の好奇心や挑戦といった部分もありますし、その土地でどういうブドウが表現力を持てるのかといったある種のデータみたいのものを提示するために、ありとあらゆる品種を植えることを選択したのだと思います。すべては商業的な何かを目標にしたわけではなく、内側から湧き出る、第六感や自分の感情に従った結果だと思います。
30種類ぐらいブドウを植えていますが、同じ品種でも区画によって熟度のスピードが違います。それぞれを別に醸造するので、仕込みのタンクで言いますと50個ほどあります。
それを毎年、ブレンドしたり、単体で使ったりして概ね20種類ほどのワインを造っています。
品種を増やすことで、収穫から醸造、そのあとのブレンドなど細々とした仕事も増えて大変な部分もありますが、それ自体を楽しんでいる部分もあります。
Q3. ロレンツォが一番今の土地にあっていると思うブドウの品種は何でしょうか?(21:45~)
A3. 15年ほど前に植えた、父マヌエルの生まれ故郷の土着品種で、パロミーノ ブランコというシェリーに使われるブドウ品種の皮が赤いバージョンであるパロミーノネーグロが、自分はすごく面白いものができると思っています。
自分たちの土地でも最近は酷暑の年が頻発するようになり、いくつかの品種に関してはちょっと苦しんでいる部分があります。父が植えた当時のその土地にもともとあったような気候環境であれば今植えているものは概ね良い状態で育てることができる気がするが、非常にエクストリームな天候が常態化していくようになっていくのであれば、自分達ももう少し品種をセレクトする必要があるかもしれないですし、それはたぶんスペインに限らず色々なゾーンの造り手達が考えている案件の一つだと思います。
③まとめ
初来日でお会いしたロレンツォとルイーザは2人ともすごく真摯で真面目な方でした。僕たちが1つ質問すると、必ず聞いたこと以上の内容で返してくれる、そんな姿勢が印象的でした。ヴィナイオータでも特に取扱期間が短く、まだまだ彼らの魅力を知らない方も多い造り手になるので、他ではなかなか類を見ない環境のなかでブドウを育て、ワインを造る彼らの思いや背景を一人でも多くの人に伝えて行きたいです。(豊田)