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2025-03-04

ヴィナイオッティマーナ 2024 Vol.2【造り手セミナー】 カシーナ ロッカリーニ


P3_DAY1 11月24日
造り手:Paolo Veglio (パオロ ヴェリオ)
通訳:太田 久人
担当:嶋津 悠里

①造り手紹介 (00:00~)

今回は、カシーナ ロッカリーニより当主のパオロが来日してくれました。
彼らのワイナリーは、北イタリア ピエモンテ州 バルバレスコ村にあり、ネッビオーロを栽培しています。パオロの曾おじいさんが土地を購入したことで、ワイナリーの歴史が始まりました。

パオロは幼い頃からトラクターに乗ることに憧れ、14歳から実家の農作業の手伝いを行います。そこから醸造学校へ進学、卒業後に本格的にワイナリー仕事を引継ぎます。
引継いだ後、それまでは近隣の生産者に売っていたブドウを自ら醸造することを決意し、2005年から本格的に自家瓶詰めを行います。

現在は、森10ヘクタールと、全て稼働しませんが畑10ヘクタールを所有しており、樹齢の古いブドウを使うスタンダードワインのバルバレスコ、バルバレスコよりも熟成期間を短くして造られるカジュアルラインのランゲ ネッビオーロ、そして、樹齢の若いブドウでポテンシャルが最も高いとされる年にのみ造られるバルバレスコ リゼルヴァ、この3種類のワインを造っています。

②造り手への質問と回答

Q1.今まで売っていたブドウを、自分で醸造したいと思ったきっかけなど教えてください。また、それに対してご家族の反応はどうでしたか?(2:47~)

A1. 1921年に私たちの一族が、今のロッカリーニという場所に定住しました。その当時から21ヘクタールの広大な土地を所有し、ブドウを栽培していました。一族のほとんどが別に本業があり、実はブドウ栽培ないし農業というのは副業にすぎませんでした。そのため栽培したブドウは、近くの造り手であるブルーノ ジャコーザ等に売り、生計を立てるくらいのものでしかありませんでした。その当時からこの土地で栽培されているブドウは高値で売れるほどの値打ちがあるものでしたが、兼業をしていたこともあり、一族はその土地を維持することだけで手いっぱいだったのだと思います。しかし、そんなに価値のあるブドウが育つ環境なのであれば、自分自身でワイン造りを手掛けていきたいと幼い頃から考えていました。有難いことにそうした考えを家族は応援してくれ、醸造学校にも通わせてくれたり、最終的には土地や畑の管理を僕に任せてくれるとまで言ってくれました。
初めてワインを造ったのは1994年頃、僕が醸造学校に通い始めたくらいです。その時は、畑にフレイザが1畝のみ植わっているものを収穫し、母の大鍋を借り、色々と工夫をしてワイン造りました。造ったワインが家族に好評だったため、次の年には親からステンレスのタンクがプレゼントされ、また次の年も同じようにステンレスのタンクをプレゼントされ、というように醸造のための容器が少しずつ増えていきました。そこから徐々に色々なやり方でワインを仕込めるようになり、自分自身が思うワイン造りの実験・追及が始まりました。

Q2. 畑と同じ10haの森を所有しているとのことでしたが、生産量を上げるために森を畑にしようと思ったりはしないのでしょうか?(13:50~)

A2.生産量を上げるために森を畑にするという考えはなく、むしろ森があることで自分の畑に良い影響をもたらしてくれるものだと考えています。
僕の曽おじいさんが土地を購入してから100年程、親族でこの土地を維持してきましたが、2021年に僕がこの21ヘクタールの土地を親族から買うという形で単独所有することに成功しました。

単独所有をするに至った理由として、バルバレスコの村では、森林エリアにも番地を付ける動きが始まりました。番地を付けるということは建築物を建てる等なんらかで利用することになり、森が切り崩されてしまう可能性が出てきてしまったからです。親族で所有している土地のため、僕が知らない間に土地の一部を親族の誰かが売ってしまい、知らないうちに森が失われることを恐れました。

この21ヘクタールの土地というのは、畑を囲うようにして森が広がっているのですが、僕はこの森が畑の環境に重要な役割を果たしていると考えています。森があることで、近隣の農家が撒いている農薬等の影響を極力遮断できること、また、森に住んでいる鳥たちが虫を食べてくれることによって殺虫剤としての役割を担ってくれること、さらに、森という存在が畑の中の生態系や植物の多様性を維持してくれると考えています。森がなくなり外部の影響を受けやすい状態になるとワインの複雑な風味が失われてしまうと思ってます。生物多様性があることで森や畑の自然環境がワインの風味に寄与するという信念を持ち、それを守ることが自分の使命だと考えます。
なので一族の土地が売られて森が無くなってしまう前に単独所有する必要がありました。

Q3. 以前まで、ネッビオーロ以外で、バルベーラやドルチェットも栽培していたと聞きしましたが、どうして栽培をやめてしまったのでしょうか?また、今後はネッビオーロ以外の品種も栽培したいと考えていますか?(22:13~)

A3.2015年まではバルベーラやドルチェットを栽培していました。ただ、生産量としては1000本程度とかなり少なく、お客さんの需要に応えることが難しいかったことに加え、虫を媒介してブドウの樹の中に入ってしまうウイルスが蔓延し、バルベーラやドルチェットがそのウイルスへの耐性が弱かったことで、枯れては植え直すことの作業に疲れてしまったので栽培をやめてしまいました。なので、現在は全部が生産体制に入っているわけではありませんが、ブドウを植えてあるのが9ヘクタール程、植栽の許可が出ているけれどまだ植えていない畑が1ヘクタールある状況で、その9ヘクタールのほとんどがネッビオーロのみの栽培となります。

僕の畑というのは、小高い丘のようになっており、東斜面と西斜面にブドウを栽培しているため、ネッビオーロと一口に言ってもかなりキャラクターの違うネッビオーロが育ちます。最良の年であれば、収穫できたすべてブドウをロッカリーニとして醸造しますし、恵まれなかった年でも、自分の思う良いとするブドウのみを選定して醸造し、そうでなかったブドウを近隣のワイナリーに売るなどということができるので、自分の畑だけでリスクヘッジを行えるというわけです。また、キャラクターが違うといいましたが、例えば、僕が思うランゲネッビオーロに使うブドウはこれが良いとか、バルバレスコに使うブドウはこれだとか、そういった判断しやすくなるというか、今よりもより良いワインを造るための見識を深めるという部分では、畑のすべてがネッビオーロでも良いのかなと思っています。
ただ、実はバルベーラを少しだけ植えています。自家用のワインとして栽培していますが、あまりにも暑い年で果実感が凝縮してしまった時などは、ランゲネッビオーロに限っては法律上で15%までは他品種を混ぜても問題ないということで、バルベーラの酸を足すことでリフレッシュしたワインが造れるので混ぜることもあるので。
先程も述べていますが、畑のすべてがネッビオーロでも良いのかなと思ってはいますが、まだブドウ樹を植えていない1ヘクタールにはバルベーラか、または初めて試験醸造した思い入れのあるフレイザを植えるのもいいのかもと思い検討中です。

③まとめ

セミナー中でも述べていますが、彼のワインを通して思う彼自身の印象というのが、威厳の中にもほっとするような温かさ、親しみやすさがあると当初思っていました。セミナーを通してと言うよりもオッティマーナを通して、良い意味でその考えが壊されたかなと思っています。もちろんセミナーでの彼の話は多分私が感じていた「威厳」部分に相当するのかなと思っています。打ち上げの際に自分でワインを注ぎ回ってボトルを空にさせては新しいワイン開けさせようとするお茶目なところ、その場を盛り上げて自分のステージにしてしまう圧倒的な魅力を感じました。ナイスキャラという言葉では言い表せない、サイコーすぎるぞパオロ サン!こんな感想ですが、ちょっとでも彼のことそして、彼のワインをより身近に感じてもらえたらと思います!(嶋津)

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