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2025-03-04

ヴィナイオッティマーナ 2024 Vol.2【造り手セミナー】 ステーファノ レニャーニ


P3_DAY1 11月24日 (日)
造り手: Stefano Legnani (ステーファノ レニャーニ)
通訳: 太田 久人社長
担当: 阿部 美咲

①造り手紹介 (00:00~)

イタリアの北西部リグーリア州のサルザーナより、ワイナリーの当主ステーファノ レニャーニが来日してくださいました。2015年以来2度目のオッティマーナ参戦!です。

ステーファノと奥様のモニカによって営まれているワイナリーで、実はステーファノは元々保険会社を経営していたバリバリビジネスマン!な経歴の持ち主。当時はお仕事の傍らで、食べること飲むことを週末の楽しみに過ごす生活をしていたのですが、今から約20年前のとある日に、ラ ビアンカーラのアンジョリーノやラディコンなどと出会う機会があり、彼らのブドウ造りやワイン造りに対する信念に大きく感銘を受け、探求を深めていきます。

そして、2004年にサルザーナで畑を購入しブドウ栽培に携わり始め、2008年からワイン造りを開始。約8年間は保険会社との二足の草鞋生活をしていましたが、2012年に保険の仕事を完全にやめて専業農家となりました。現在は1ヘクタールの畑でヴェルメンティーノのみを栽培しています。その自社畑のブドウで造るワインのほか、信頼のおける近隣農家の畑のブドウから造られるワインもリリースしています。

②造り手への質問と回答

Q1.元々は保険会社の経営をされていたとのことですが、当時の仕事から今のワイン造り(農業)に活かされていることはありますか?

A1. 保険業と農業、仕事としては全く交わることのない世界ですので、仕事人としては2つの別々の人生を歩んできたといえると思います。そんな中、保険業の人生でも今のワイン造りの世界でも、いかに情熱をもって仕事に向き合うか、そしていかにその仕事に対しての興味や熱を絶やさないか、ということを心掛けてきました。
しかし、もちろん情熱だけでは不十分だと思います。ある種の”覚悟”というものがなかったら、どちらの世界においても今のようには歩めていないでしょう。保険の世界では、何か問題が起きた時には人と人同士話し合うことでおおむね解決することが出来ていましたが、お客さんや従業員と通じ合うために諦めず向き合い続けるということは、情熱のみならず覚悟がなければできなかったと思います。
そんな中で、ワイン造りという全くノウハウのない新しい世界に飛び込むことも私にとって覚悟の一つだったわけですが、ブドウと向き合うということはなかなか難しいです。私自身、彼ら(ブドウ)と言葉で話すことはできないですし、ワイン造りというのは、私が彼らに対して行ったことが良かったのか悪かったのか、その答えが分かるまでに1年かかる仕事です。しかしそれでも、いかに彼らの声を聞きにいこうとするかということ、仮に失敗したとしてもそこから何を学んで次に生かせるか考えること、そして成功に驕らずエラーも受け止めるといった人や自然への慎ましさや敬謙さを忘れないことで、日々気づきを拾っていきながら、覚悟を持ってワイン造りに向き合い続けたいと思っています。

Q2. 昨今のナチュラルワインをめぐる、飲み手の層やマーケット(レストランシーン)について、日本とイタリアで何か違いを感じますか?

A2. まず、やはりイタリアに住んでいることもあり、そのようなシーンは日本よりもイタリアの方が見てきていますので、もっと頻繁に日本に来て、日本のイタリアワインシーンに触れて研鑽を深めたいと思っています…!
イタリアと日本のワインシーンの違いというと、興味があるとか、それを深く知りたいと思う気持ちとか、そういったものがミックスされたような、“知識ではないもの“が全然違うところにあると思います。イタリアのレストランや酒屋のシーンでは、売れる分だけ買ってできるだけ早く売るといった、早い消費のサイクルで私たちのワインが動いています。
しかし私は、人と同じようにワインも年を重ねることで面白みが増すと考えています。だだ商店や日本でヒサトに連れて行ってもらうレストランでは、現行ヴィンテージだけでなく古いものも飲めるある種の”文化”のようなものがありますよね。その”文化”は、私のワインを扱ってくれている人たちが、このワインを置いておいたらどんな風になるのだろうという興味や、そのワインを深く知りたいという気持ちがないと起こりえないことです。そういった面で、日本の方が遥かに進んでいると感じています。
そういった文化が日本にあること、それに興味を持ってくれる飲み手やレストランがいることを、イタリアのマーケットの中でも伝えることが出来るのか、伝えていかなければいけない、と思っています。

Q3. これからも続けていきたいことや目指しているものなど、今後のご自身のワイン造りについての展望をお聞かせください。

A3. 実は今は友人のワイナリーを間借りしてワインは造っています。もう私も68歳になりましたので、新たに自分のセラーを造るなどということは考えていません。
”ポンテ ディ トイ”に使われているブドウ畑が今年で樹齢20年を迎えます。20年という数字が特別なわけではないですが、一つの区切りとしてはいい数字に達したのではないかと思っています。もちろん今までもそうしてきたつもりですが、2025年もより高い次元での今の自分のベストを尽くし、自分のすべてをお嬢さんたち(愛情を込めてブドウのことをそう呼んでいます)に注ぎ込んでいきたいと思っています。

また、2025年はホップを緑肥としてまくことに挑戦したいと考えています。
(太田による解説:彼の畑では、ブドウを剪定した後の枝などを破砕して植物性のコンポストのようなものを作り畑にまいたり、そら豆などマメ科の植物を緑肥としてまいたりということを毎年しています。)
近隣農家のご老人から、”このあたり(サルザーナという地域)ではホップを緑肥として使ってきた伝統があり、ホップを植えるとヴェルメンティーノというブドウはよりアロマが強くなるし、アーモンドのような少しスーッとした風味をブドウに与えてくれる”という話を聞きました。私自身、そのスーッとした風味が好きだということもあり、その地域で昔から行われてきたことに新たに挑戦してみたいという興味がわきました。もちろん今まで私がワイン造りで積み重ねてきたものもあるのですが、それをただただ続けるだけではなく、自分の好奇心の赴くままに新しいことに挑戦しつつ、あくまでもお嬢さんたち(ブドウ)が居心地よく過ごせる環境を目指して、よりベストを尽くしていきたいと考えています。

③まとめ

とてもとても愛の深い人。ステーファノのワインを飲むと、実家に帰って家族でごはんを食べる時間のようなじんわ~りとした温度を感じるな、と個人的に思っているのですが、初めて彼に会って話を聞いて、その感覚がとても腑に落ちました。自らの興味や好奇心を忘れないながらも、”ブドウにとっての最善”とのバランスを保つことに尽力する内なる情熱や、ブドウやワインに対してだけでなく人に対しても敬謙さや優しさを向ける温かい心、さらには、何回もみんなでカンパイ!したがるお茶目な一面(笑)にも触れることが出来ました。また彼とカンパイ!する日を楽しみにしながら、彼のワインでじんわ~りと、ホッと、していただけたら嬉しいです。(阿部)

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