ヴィナイオータかわら版 ~桑原編 その六~
皆さん。こんにちは。今回のかわら版は農業部のわたくし、桑原が担当させていただきます。
わたくしがお話したい造り手は、ヴォドピーヴェッツです。現在、5年ぶりの開催となるヴィナイオッティマーナが絶賛開催中でして、全8ピリオドあるなか、昨年までに3ピリオドが終わったところです。パオロ ヴォドピーヴェッツはピリオド1で既に来日してくれました。その中で彼はとても印象的な言葉の数々を残してくれました。言語は違えど、わたくしの農業の師匠と全く同じことを語っていまして、本質的なことは洋の東西を問わず、同じなんだなぁ、と改めて思いました。
イベントでは各造り手にスポットを当てたミニセミナーをやっていまして、パオロのセミナーでは、来場者から「世界的な異常気象がここ近年続いており、イタリアもその例外ではないと思うが、それに対してどのような気持ちなのか?そしてどんなふうに乗り越えているのか?」といった趣旨の質問がありました。
それに対し彼はただ一言「何もしません」と言い、会場は一瞬「え?」とした雰囲気となりました。そのあと、しゃちょうオータの解説が続きます。
「そうなんですね。彼が言いたかったことは、ブドウを栽培する上で、異常気象そのものに対して、人間ができることが何かあるのであろうか?いや、何もできやしない。ということなのです。異常気象であろうが、良い気候であろうが、彼がやることは同じなんです。よく観察すること、自然の声をよくを聴くこと、ブドウが苦しんでいたらほんの少し手助けすることの3つだけなんです。彼が表現したいと思っているワインを造るためには、自然のリズムに寄り添い、各手順をベストなタイミングで確実に行っていくこと、その積み重ねでしか造り出すことができないのです。」
わたくしの農業の師匠も全く同じことを言っていました。彼は、自らのことを「師匠」と呼ばれるのを嫌っていました。「師匠は俺じゃない、自然が師匠だ。困ったら、自分の畑にいって答えを探してこい。」と、簡単に答えを求める新米の弟子たちは度々怒られていました。
「子育てと野菜は一緒なんだ。子育てにマニュアルはないだろう。その子がどう接してもらったらうれしいか、愛情を感じるかは、その子の反応をよく見るしかない。畑も、一枚一枚、場所によって全然違う。そこの野菜がすくすくと健全に育つためには、畑に行って彼らをよく観察して、ベストなタイミングで、ベストな手順を見極めていくしかないんだ。決して親である自分の都合や我を押し付けちゃいけないんだ。」と。
世界遺産の半分がイタリアにあるといわれ、壮大な建造物がたくさんある国から2007年初来日したパオロは、そんな国から訪れたにもかかわらず、日本の寺社仏閣に大変感動したとのことです。ローマにあるような巨大で壮麗な建造物は、確かに素晴らしく価値のあるものだけれども、そこにあるのは時の権力者の力を誇示するための過度に装飾を凝らした西洋的な美であると。一方、日本に伝統的な建物の佇まいには、自然へのリスペクトが感じられ、庭石や木々の一本に至るまで、なぜそのものがそこにあるのか、人工的な空間にいかに自然を表現するかという意図が明確に感じられるところにいたく感動し、その経験は、その後のセラー建設や、畑での作業に活かされているとのことです。
私は、ヴィナイオータに入社して、当社のワインの造り手たちと直に触れ合う機会を持つまでは、自然の脅威に対しては科学の力で対抗する、というのが西洋文明であると、固定観念で思っていました。しかし、パオロのような感性の西洋人もいるのだと、そして、自分の師匠と同じことを言っているのを聞いて、とてもびっくりしたのを覚えています。
そして、今回の来日で、私は彼とは初めて会ったのですが、改めて本人からその言葉を聞いたとき、彼は私の師匠と同じ優しい目をしていました。ただ、そこにあるものをそのままの存在として見つめるような、深い深い眼差しでした。
彼のオレンジというよりも黄色に近い輝きを放つワインは、味わいを越えて唯一無二の品格があり、そこには人間の力の及ばない自然の偉大さを感じるとることができます。口に含むと、一瞬にして静謐な世界に我々をいざなってくれます。
その一方、彼のワインは、そんな堅苦しいわけでもなく、普通に飲まれても、素晴らしく美味しく、楽しむワインであることには変わりはありません。ただ、その味わいに神経を集中した時には、その深淵さにドキッとさせられるワインでもあります。
自然の偉大さを知ることで、人は自らの限界を知り、どのように自然とかかわっていくのが生き物としての人間のあり方なのか?それを考えていくことで、物理的な豊かさでは感じられない、豊かな精神性に満ちた生活がおくれるのではないか?
彼のワインや、私の師匠の野菜は、そんな思いや希望を湧かせてもらえるものたちです。私もそんな農産物をいつか育てられるようになりたいなと思っています。
≪桑原の飲んでもらいたいワイン紹介≫
銘柄:Vitovska 2013 / ヴィトフスカ2013
造り手:Vodopivec / ヴォトピーヴェッツ
地域:伊 フリウリ=ヴェネツィア・ジューリア州
ブドウ:ヴィトフスカ
希望小売価格(税抜) : 7,500円
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