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2025-03-04

ヴィナイオッティマーナ 2024 Vol.2【造り手セミナー】 ファビオ デ ボーモン


P4_DAY2 12月9日
造り手:Fabio de Beaumont ファビオ デ ボーモン
通訳:太田久人
担当:小沼 祐子

①造り手紹介 (00:00~)

ファビオ デ ボーモンの当主のファビオ と奥様のフランチェスカ ズーピ が来日してくれました。 ファビオ デ ボーモンはイタリアのカンパーニア州アヴェッリーノ県で、ローマから約270km、ナポリからだと74kmほどにある、カステルヴェテレ スル カローレという人口約800人の小さな町にあります。

【ご近所には…】
当社の造り手ですと、イル カンチェッリエーレ、ルイージ テッチェ、カンティーナ デル バローネ、などが近隣にあります。 ファビオが所有する畑からイル カンチェッリエーレの畑がすぐ目の前に見えるそうです。

【どんな造り手?】
※このスライドの写真は、ファビオのお祖母ちゃんが植えたブドウの畑です。
ボーモン家は貴族の出身で、ここの土地の領主で、1600年頃に時の王から拝領されたこの土地に屋敷を建て、その周りに他の家々が建つようになり、徐々に町になっていったそうです。
ファビオの曾おじいさんの身分証明書の職業欄にはなんと、”男爵”と記載されているそうなのですが、男爵のお仕事ってどんなものかご存知でしょうか?男爵は、欧州全土にいた小領主で、地方に派遣された役人や大地主さんのような人のことを指すようで、その土地の統治権を持っていたそうです。
デ ボーモン家では、代々ブドウを収穫してワインやリキュールを造ってきましたが、ほとんどは自家消費用で、ファビオのお祖母ちゃんであるアレッサンドラ男爵夫人が、近所のレストランや友人に極少数のボトル売りと、あとは極一部のブドウを販売していた程度でした。
ラベルデザインは、屋敷内の1600年代のタイルの模様を採用したそうです。
畑には、一家が守ってきた、樹齢150年という高齢樹が植わる場所もあり、現在はその区画と、新たに植えた区画をあわせて、4ヘクタールのブドウ畑から7酒類のワインと2種類のリキュールを生産しています。

【ファビオってどんな人?】
ファビオは2014年、ローマで法律を学び、彼を含むデ ボーモン家の全員が都市部のローマやアヴェッリーノに住んで生活をしていて、彼らのルーツであるカステルヴェテレの屋敷や土地をないがしろにしてしまっている現状を、もったいないと感じていたファビオは、それらにもう一度 光を当てて活用するべく思い立ったのが、屋敷に代々受け継がれる秘伝のレシピの、野生の桜の葉を浸して風味付けする リキュール を世に解き放つことでした。

【きっかけは、ドンファ から】
ファビオが商業的に販売をスタートするきっかけとなったのは、この「ドン ファ」なのですが、わたしが初めて呑んだ印象は、桜餅のような香りから、どこか懐かしさを感じつつ、しっかり着地点をとらえているように感じたことから、堅実なお人柄なのかな という印象を持ちました。

Q1.ワインやリキュールのボーモン家に伝わる秘伝のレシピは、もともと、 どのように扱われてきたのですか?

A1.カンパーニャ州では、ドンファに似たようなリキュールのことを僕たちはシェリーと呼んでいます。そのレシピに関しては、その家庭ごとに誤差はあるのですが、他の家では例えばスパイスを入れるところもあるし、さくらんぼの実のほうを一緒に漬け込んだりするところもあります。一般的なリキュールは、強いアルコールにスパイスや抽出したいものを漬け込んで、それをワインなどで割るというようなスタイルが多い気がしますが、デ ボーモン家のドンファのレシピは、ワインに桜の葉だけを使うというのが特徴で、200年以上そのレシピが受け継がれ、造り続けてきていることは分かっています。僕が唯一行った修正点とすれば、砂糖の量を減らしたことです。
伝統的なレシピで造るリキュールだと、僕にはちょっと甘すぎる気がしましたし、もっと飲み心地を向上させるためには、砂糖の量が減らしたほうが良いのではないかと考えたものが、この後に皆さんに飲んでいただく「ドン ファ」というワインです。

それに対して「フラ アメデオ」は、クルミを蒸留酒というかホワイトウイスキーみたいなものに漬け込んで造るリキュールなのですけれど、これはその昔、アメデオという名前のキリスト教のとある宗派の修道院の修道士から教わったレシピで、ボーモン家は貴族でしたので、昔から騎士や教会、そこで働く修道士とも密接な関わり合いをもっていたため、そういう人達からのレシピを受け継いできたものが、「フラ アメデオ」です。

Q2. ボーモン家の伝統のワインとリキュール造りは、途絶えることなく、長年ずっと造り続けられてきたもの なのですか

A2.デ ボーモン家は、1200年代にフランスのノルマンディー地方からナポリに移り住んできた一家です。1675年頃にカステレヴェテレに領地(土地)を所有する権利を買い、その土地の領主となって「男爵」の爵位をもらうことで一家の周りに村ができ、やがて町になっていきました。貴族というのは働かずに庶民からの献上物などで生活してきたのですが、とある頃から貴族制が揺らぎはじめました。広大に所有していた土地は、貴族の派手な生活維持のために切り売りしながら徐々に縮小しつつ代々受け継がれ、近現代まできてしまいました。貴族なのですが自分で働くということを考えはじめたのは叔母さんで、知識や経験も皆無の状態から自分でワイン造りを始めることにしたのはお祖母さんでした。彼女が知り合いの農民から畑仕事などを教えてもらったことを記したノートなども存在しています。デ ボーモン家にある樹齢150年オーバーのバルベーラについては、土着品種の黒ブドウであるアリアニコの渋みが強くて硬い飲み難さを、バルベーラで割って和らげるために使用してきました。お祖母さんが手探りで自分たちで造るかたちにしたものを、僕が伝統として受け継いだようなものかもしれません。ドン ファ以外にも、お祖母さんが造っていたフィアーノの微発泡性ワインにもお砂糖を加えるのではなく、冷凍保存しておいた同じブドウジュースに変えるなどの小さな補正を施したり、バルベーラを単一での醸造を僕が始めたりすることもあったりするので、結論として、長年にわたり同じように造り続けられてきたわけではありません。

僕の場合、アリアニコを使って微発泡性のワインとスパークリング(ガス圧の高いタイプの)ワインを造っていますが、カンパーニャ州自体が微発泡性のワインを造る文化は無かったです。メインのブドウはアリアニコというストロングなワインをつくる品種ではあるのですが、僕はそのアリアニコの別の側面を表現したいと思っていまして、僕自身のアイディアでロゼ微発泡や、ロゼスパークリングを造っているのです。

③まとめ

貴族制が揺らぎはじめてから、一般庶民の生活にシフトチェンジしていくことを決めたお祖母さん(アレッサンドラ男爵夫人)に、葛藤や戸惑いなどが無かったわけではないと思います。お祖母さんからの当時の話しも是非直接聞いてみたいと思ってしまいました。また、来日したファビオの気さくでお茶目ながらも落ち着いた人柄とワインを飲んで感じた印象、その二つに共通するような堅実な雰囲気を感じ、妙に納得してしまいましたし、大好きな造り手のひとつとなりました。2024年11月が初回輸入となりましたが、今後もデ ボーモン家の伝統とファビオのアイディアの融合で楽しいアイテムがたくさん入荷してくれることを願っています。(小沼)

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