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2024-02-08

ヴィナイオータかわら版 石橋編 ~その七~Marsala Vergine Riserva 1988

突然ですが、最近「大航海時代」というゲームにハマっています。

16世紀のヨーロッパを舞台に、何人かの提督から一人を選んで進めていくのですが、調達した交易品をヨーロッパに持ち帰り財を成したい商人だったり、未開の土地を開拓し世界地図を完成させたい学者だったり、海賊を討伐する軍人だったりと、航海をする目的も人によりさまざま。

え、何の話?と思われたかもしれません。なんでこのゲームにハマってしまったというと、「海運+ヨーロッパ」という組み合わせがインポーターの仕事をするにおいてなかなか勉強になることが多い(※)からなのです。

※そのほかにも、“トラパニ(シチリア)やカリアリ(サルデーニャ)から見たらイタリア本土よりチュニジアの方が近いなあ”とか、“「マルヴァジーア ディ カンディア」のカンディア(クレタ島)ってここにあるんだ”とブドウの伝播ルートを思い浮かべてみたり、アフリカ大陸南端の喜望峰を回りながらインドに行くたびにスエズ運河の重要性を改めて思い知るなど、ワインの歴史は海運と密接に関わっていることが体験できるので、興味を持った方は是非やってみてください。

話を戻します。イングランド人の提督ですと、交易で利益をあげるためロンドンからインドに向かい香辛料を船に積みます。そして、インドから喜望峰経由(当時はスエズ運河がない)で、アフリカ大陸に沿いながら再びロンドンを目指すのですが、その通り道にマデイラ島やヘレス(シェリー)、ポルトがあるのです。当時は冷蔵設備も十分にありませんでしたので、船員たちが飢えをしのぐための食料や水は長く日持ちしません。そのため、船員たちは喉の渇きを水ではなく酒で癒すことも多かったといいます。また、道中の港で補給を行う必要があり、そのとき一緒にこれらの地の名産であった酒精強化ワインを船積みしたといいます。

イングランドでは、14世紀にフランスとの百年戦争が始まったためほど近いボルドーからワインが輸入できなくなり、それがきっかけで当初は代替としてシェリーやマデイラの輸入が始まったとされており、ポルトガル北部でポートワインの生産が始まったのもこの頃といわれています。また、1519年のマゼランの世界一周航行時にはシェリーが大量に船積みされたそうです。

さて、ここでお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、もう一つの酒精強化ワイン産地として名高いマルサーラはここまで登場していません。マルサーラがイングランド人に発見されたのは、さらに200年以上後の1773年にジョン・ウッドハウスという貿易商が航海中の悪天候で偶然非難した先がマルサーラだったというのがきっかけです。大西洋上に位置するスペインやポルトガルの産地とは異なり、地中海上に位置するシチリア島のマルサーラは、その立地上の理由もあり、このときまでイングランド人に発掘されていなかったのです(気になった方は是非イギリスから海を辿って世界地図を眺めてみてください)。そして、ウッドハウスはこの地で造られるシェリーやマデイラなどと近い風味を持ったワインを口にし、すぐさまイングランドに輸入することを決めたのです。

当時マルサーラでは、「永遠」を意味する“Perpetuo”という名の継ぎ足し方式でワインが造られていました。遠くへ出荷されることはないため、必要のない酒精強化はされていなかったのですが、イングランドへの航海に耐えるためウッドハウスはワインへ酒精強化を施しました。そして、その後に新規参入してきたカラーブリアの起業家たちもそれを模倣するようになり、だんだんマルサーラでも酒精強化したワインが多数派になっていきます。そうして今日では酒精強化されたワインでないと「マルサーラ」という名前が名乗れなくなりました。ウッドハウスに発見されたことで世界中に名が広まりましたが、それと同時に商業主義に晒されることにもなりました。ワインに影響を与えるのはフィロキセラのような虫だけでなく、こうした人為によるところも大きいのです。

こうして蔓延した商業主義により失われつつあったマルサーラの真の姿を取り戻すべく立ち上がったのが、「デ バルトリ」の先代マルコです。子供たちが意思を引き継いだセラーでは、酒精強化を施さず継ぎ足しながら長期の酸化的熟成を行う当時の“Perpetuo”でワインを造り続けており、それが「ヴェッキオ サンペーリ」(VS)にあたります。

そして、モストコットやミステッラといった果汁成分を一切混ぜず、VSの10年物にブランデーのみで酒精強化して先代マルコが1988年に一度だけ造ったのが「マルサーラ ヴェルジネ」。ヴェッキオ サンペーリだけでなく、あえてこのワインを造ったのは「マルサーラ」を名乗りながら、熟成期間が短いうえにワイン以外のものが大量にブレンドされているものが蔓延っている現状に対するメッセージが含まれているのではないでしょうか。

アルコール度数は19%と高いですが、発酵途中のワインに酒精強化をしているわけでなく、醗酵しきったワイン(VS)にごく少量のブランデーを添加しているだけなので、一度口に含むと止まらないぐらいの飲み心地があります。原酒から数えるとすでに45年以上の時間が経っていながらもなお生命力を放ち続ける極上の液体、特別な時間に是非味わってください。

●マルサーラの区分に関して詳しくはこちら
https://vinaiota.com/blog/staffblog/268

ワインにおいて土地のことを語るときは、緯度や標高、気候条件によってどういう品種が適しているかや、どういう土壌特性なのかというテロワールの面に主眼があたりがちですが、こうした立地的要因というのも大きく影響を与えている。というお話でした。

 

■ECサイト商品画像はこちらから→https://ec.vinaiota.com/product.php?id=908

 

≪石橋の飲んでもらいたいワイン紹介≫
銘柄:Marsala Vergine Riserva 1988(500ml) / マルサーラ ヴェルジネ リゼルヴァ【白酸化熟成】
造り手:De Bartoli / デ バルトリ
地域:伊 シチリア州
ブドウ:グリッロ
希望小売価格(税抜) : 22,000円

 

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