造り手紹介 イル カンチェッリエレ その2(2015.1筆)
次はカンパーニア州のイル カンチェッリエレ行きます!
彼らのワイナリーがあるイルピーニアというゾーンで栽培されている赤ワイン用品種アリアーニコは、ギリシャ人によって紀元前6-7世紀に持ち込まれたと言われています。つまり、ローマ人が訪れる前からワインが生産されてきた、非常に歴史のあるゾーンなのです。
19世紀、ヨーロッパ全土でフィロキセラの被害が蔓延し、ブドウ畑が壊滅的な被害を受けた時、このゾーンで生産された大量のワインが北イタリアはもとより、全ヨーロッパに旅立っていったそうです。当時の生産量は、なんと1億リットル程度あったのではと推定されているそうです。ですが、100年後にはこのゾーンにもフィロキセラが訪れ、栽培面積が激減し、現代に至ります。
もともとこの地域でのワイン生産は、マストロベラルディーノを筆頭とした大規模ワイナリーの独占市場だったのですが、かつてのバローロでのムーヴメント同様に、小規模生産者が出始めます。2002年には、51軒しかなかったタウラージを生産するワイナリーが、2009年には172軒にまで増えます。この121軒(172-51=121)のうちの一軒がイル カンチェッリエレであり、ヴィナイオータ取扱いの別の造り手、ルイージ テッチェということになるのかと。
どちらも、もともとは自家用ワイン用のブドウを除いたものをネゴシアンに売っていました。このネゴシアンが大手ワイナリーや市場(“しじょう”じゃなくて、“いちば”です。つい数十年前まで、ナポリの市場では醸造用のブドウが売られていて、各家庭でワインを自家醸造していたそうです!!にわかに信じがたいというか…。)のニーズを汲みつつ、買い付けを行っていたようです。時代が変わり、買いブドウへの需要が減ったタイミングで、ブドウ栽培農家が自ら醸造&瓶詰も行うようになってきたのがここ10年くらいの動きなのだと思います。
イルカンチェッリエレは、アリアーニコからスタンダードラインにあたるジョヴィアーノと、タウラージ&タウラージ リゼルヴァの3種類のワインをほぼ毎年生産しています。が、自家元詰めを始めてから5ヴィンテージ目の2009年は、非常に雨の多いヴィンテージでした。ワイン自体に本来あるべき力がないと判断し、全てのワインを格下げして出すことを決めます。
リゼルヴァはもちろんの事、ノーマルのタウラージも生産せずに、そのワインをジョヴィアーノとして、そしてジョヴィアーノにあるはずだったワインを、更に廉価なワイン、アリアーニコIGTカンパーニアとしてリリースすることにします。タウラージを名乗るからには、とあるクオリティ、テンション以上のものを世に送り出したいという彼らの良心がこういった決断をさせたのでしょう。この格下げされた2つのワイン、価格と味のバランスが異様に悪く、美味しいんです!!!(笑)
このブログ内のどこかに書いたことがあるような気がするのですが、とあるワインをブラインドで出されたとして、そのワインに使われたブドウが、農薬や化学肥料に頼らずに育てられたものかを言い当てる事は不可能(少なくとも僕には…)なのですが、セラーでの仕事ぶりに関しては概ね言い当てることができると思っています。ブドウの熟度、培養酵母を使用しているか、醗酵中に温度管理をしているか、酸化防止剤の多寡(ないし全く入っていないか)、フィルターの使い方等…もちろんその造り手がワインを造り始めたばかりで、樽が新しかったりした際には正確に読み取れないこともありますが…。
なんにせよ、健全なブドウを使用していて、醗酵も極めてナチュラルに行っていて、酸化防止剤やフィルターの使用も必要最小限な雰囲気がある…言い換えるなら、セラーという手をかけやすい環境下で、ブドウや酵母の力を信じ、人為的関与を最小限に留めている、良心が見え隠れするようなワインを醸す人が、畑でどんな無茶な事をするだろうか?いやしないに違いない!!というのが僕の考えでして…。
良心ある造り手ならば、天候に恵まれなかった年であっても、その造り手のその瞬間の最良の良心と努力をもとにワインを仕込むはずで、天候に恵まれた“偉大な年”のワインよりも熟成のポテンシャルはないかもしれませんが、それが品質的に劣るということを指すわけではない、むしろ、早い段階でより楽しめるワインになるという点では、消費者目線では魅力的とも言え…。
良い天候に恵まれた年、恵まれなかった年というのはあっても、誠実で良心ある造り手に、“良いヴィンテージ”と“悪いヴィンテージ”はないと僕は思っています!!もちろん、恵まれない年が10年連続で訪れてしまったら、非常に悲しむべき事となりますが、10年のうちに何回かある事自体、極めて“自然な”ことのように思いますし、そんな年があるからこそ、豊かな恵みに喜びや感謝の念を抱けるのではないでしょうか?
格下げしてリリースさせるというのも、悪いワインだからなのではなく、“その価格を頂くのが申し訳ない”と思う造り手の良心のあらわれの1つの形なのかと。
ラディコンのワインのように、ある意味“派手な”ワインを伝え売ることには、徐々にできるようになってきたような気がしてるヴィナイオータですが、イル カンチェッリエレのワインのような、地味だけど素晴らしく美味しいワインもしっかり伝え売っていきたいなぁと思う今日この頃なのでした。
写真が全然見つからない!!!!2008年に初訪問した時、僕ごときにワイン飲ますのに緊張するナディア!(笑)
お約束の長テーブル!
3年前の記事に写真を貼ってあります。見てみてください!!(それらの写真さえもPC内で見つける事の出来ない僕…)
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