toggle
2023-10-05

ヴィナイオータかわら版~水野編 その八~

約1年ぶり、今回で8回目のかわら版となります。水野です。先日、太田のイタリア出張に同行し、造り手の元を訪ねてきました。

約2週間のイタリア出張の中で、造り手が新しく試みていることやこれまで大切にしてきたことを見て、聞いて、感じてきました。とても素晴らしい時間の中で、自分がこれからすべきことや自らの立ち位置を確認できたように思います。そしてこの出張で得た経験を皆さんに還元できるよう、まずはこちらで伝えていきます。

Pacina

 

 

今回紹介するのは『パーチナ』です。2000-3000年程前、この地に住んでいたエトルリア人が、彼らの言葉で酒の神を表す『パクナ』と名付けた土地。ワイナリー名はこの名前に由来しています。土地に酒の神の名をつけるのは、それほどブドウ栽培に適した環境であるということ。山によって強い風からは守られ、太陽の恩恵を十分に受けられる場所に位置しています。そんな土地でワインを造るパーチナは、できるだけ自然にダメージを与えることなく、むしろ自然に何らかの貢献をしながらその土地を表現する葡萄、ワインを造ろうと考えています。新しく作った畑では、できるだけ人間が手を加えることなく、自然に動植物が共生している環境を理想として、葡萄樹を密植せず、オリーヴの木を中心とした様々な樹木を植えています。

〈畑での仕事〉
彼らと畑を見ながら話をしていると、一見しただけでは理解できないことも、一つ一つに多くの意味を持って仕事をしていることが分かります。

・なぜ草を短く刈らないのか
→雨が多い時は余分な水を吸い上げ、雨が少ない時は地下から水を引っ張り上げてくれる。
→土壌に直射日光があたることを防ぐ(土壌の乾燥防止、土中に住む生物・微生物の保護)。
→下草が表土の水分を吸い上げることにより、葡萄樹が水を求め、より深い土中に根を張るようになる。

・なぜ畑に様々な樹木を植えるのか
→近年の気候変動による酷暑の影響でブドウの成熟が早まっている。しかしフェノールの成熟(生理的成熟)が足りていないことが多く、強すぎる太陽からブドウを守る傘の代わりとしている。
→葉が少ない状態で強い日光が当たると、ブドウ自体が焼けてしまう可能性がある。焼けてしまうと果皮が柔らかくなり、以後の成熟に支障をきたす。
→本来傘の機能を果たすのは葡萄樹の葉であるが、酷暑で水も少ない場合は葉の生産が少ないことが考えられる。その為、他の樹木の葉により傘の機能を補填する。

●歯抜けした葡萄樹の跡地に植えてある桜の木の画像
https://vinaiota.com/newsite/wp-content/uploads/Pacina_Visita202306_2.jpg

●新しい試みとして、オリーヴを植え、葡萄樹も密植していない畑の画像
https://vinaiota.com/newsite/wp-content/uploads/Pacina_Visita202306_1.jpg

これらは数ある中の一部でしかありませんが、どれだけ思慮深く仕事をしているか表しているように思います。

〈セラーでの仕事〉
いつも綺麗に掃除されたセラーはごくシンプル。セラーでの仕事は最小限に、いかに良いブドウをセラーに持ち込むかを大切にしています。それは彼らの考える『良いワイン』が味の良し悪しではなく、土地を体現するワインかどうかを重視しているためです。常にワインへ耳を傾け、声を見逃さないように、ゴール(イメージ)のない造りをしている彼らのワインは、土地と年と人を反映しています。

〈最後に〉
私自身、ワインは自然なアプローチで造られるものでなければならないとは考えていません。しかし、もし仮に自分自身がワインを造るとして 、土地を、その地に生るブドウの素晴らしさを感じてほしいと思った時、パーチナが行っていることは凄く腑に落ちるような気がします。ワインを楽しむ上で、味が良いことは大切ですが、それよりも個性があり、感じられる中身があることの方がより大切で本質的なことではないでしょうか。

この文章を読んでくださった皆様が、ふと思い出してパーチナのワインを飲んでくださるのを楽しみにしています。

 

≪水野の飲んでもらいたい造り手紹介≫
造り手:Pacina / パーチナ
地域:伊 トスカーナ州

関連記事