【新入荷】2023年10月その4(De Bartoli,Trinchero)・Two Metre Tallのサイダーのお話
現地6泊という強行日程でヨーロッパに行くことにしたオータです。パーチナという地所をティエッツィ家(奥さんジョヴァンナの一家)が購入してからちょうど90年になるそうで、それを記念して世界中の彼らのインポーターを招待し、1日みんなで過ごそうよ的イベントを彼らが企画、そこにオータも参加してきます。
あまりにも日程がタイトすぎて取引先の多いイタリアをまわるのが難しいことを逆手に取り、今年から取引を始めたスペインの造り手を訪ねてきます!なにしろ、ボデガ カウゾンのラモンには一回も会ったことさえないという…。スペイン初上陸という事もあり、ドキドキワクワク…。この旅を心穏やかなものにするためにも、本メルマガを早々に書きあげる必要がぁ(トランジット便を待つアブダビで書き終えました!)!このメルマガ以外にも、作文的な宿題がもう2~3ありまして、国語の成績が良かったためしのないオータとしては苦しい日々が続きます…。
そんなこんなで何度か先延ばしにしていた、この夏に(でも彼の地は冬!)タスマニアに訪問した際にトゥー ミーター トール(以下2MT)のアシュリーから聞いた深すぎるサイダー話でっす!オータの英語力の至らなさもあり、最も肝心なところが完全に理解できず帰国後に質問メールをしたところ、懇切丁寧な返事が返ってきたのですが、それを完全に理解するために、光合成の事やらリンゴの糖蓄積のプロセスなどもしっかり理解する必要が生まれ、訳に時間がかかってしまいました…。
オータの疑問の核心部分、“サイダーは、ワインとビールの中間地点に位置する” というアシュリーの発言の真意とは…。以下、アシュリーからの返事の訳になります!
『OK、サイダーについてのあの話ね。“中間地点”というのは、厳密には正しい表現ではなくて、リンゴに含まれる糖分(単糖類)の一部は、果実が熟す際に(果実中に既に蓄積されている)でんぷん(多糖類)が変換することで得られているってことが言いたかったんだ。』
※(ブドウの場合、成熟期になると光合成で得られた単糖類(ブドウ糖や果糖)が直接果実内に蓄積されるのに対し、ビールや日本酒などの原料である穀物は、胚の中にでんぷん(多糖類)として蓄積します。そして醸造の過程で、酵素の働きによりでんぷんの鎖が切れて単糖類が生成されるわけですが、リンゴの場合、ブドウのように成熟の過程で起こなわれた光合成から得た単糖類が果実に運搬され蓄積する以外にも、穀物のように果実内に既に存在しているでんぷんが単糖化するという現象が同時に起こっているので、アシュリーは“中間地点”と表現しているのかと…)
『こういった(やや複雑な)プロセスにおいては、ビールを醸造している時同様に、でんぷんという多糖類すべてが完全に単糖化することなど望むべくもなく、でんぷんの加水分解物(未だ多糖類)が果実内に残留するんだよね。その各種でんぷん加水分解物を便宜上ひとまとめにして、今後はそれらを“デキストリン”と呼ぶことにしよう。
このデキストリンは、野生酵母そして各種バクテリアが起こす醗酵にとって、特にブレタノマイセスや乳酸菌のような醗酵というプロセスのバックエンド(後半部)を担当する子たちにとって、パーフェクトな食べ物なんだ。ワイン(=ブドウ)は、これらの食べ物を持ち合わせておらず、本質的にはサッカロミセス(酵母)のみが醗酵を起こしてできたプロダクトと言える。余談にはなるけど、ブレタノマイセスがワイン中に生成する、“馬の鞍敷(鞍と馬の間に敷く毛布のようなもの)”とか“バンドエイド”のにおいのことを、僕が“誰かの叫び声のにおいがする”と表現する理由も、こういったことが関係しているんだ。何が言いたいのかというと、ブレタノマイセスは、醗酵という様々な微生物がしのぎを削り合う場面においては貧弱な競争者であるのだけど、(主な醗酵後の世界の)奇跡的な生存者でもある。
サッカロミセスがブドウをワインにするという仕事を完遂した時には、哀れな年老いたブレタノマイセスのための食べ物はもはや残されていない…。そして飢えたブレタノマイセスは、食べ物を求めてジタバタし始め…。“豚の頭数に即した餌場の数(そして餌の量)がなければ、大きく強い豚が餌場を支配し、その結果として小さな豚たちが飢えることになる”という事を、豚を飼ったことのある人ならば容易に想像できると思うのだけど、それに似ているとでも言えば良いのかな…。
ビールとサイダーの場合、前述の“デキストリン”の存在のおかげで、この状況を回避することができる。液体中に糖分がどれだけあって、醗酵界における典型的な“大きな豚”であるサッカロミセスが仮にそれらをすべて食べ尽くしたとしても、ブレタノマイセス、乳酸菌そしてその他諸々の、競争力はなくともとても丈夫なバック エンド微生物たちのための食べ物が残されているわけだからね。
実際2MTは、この現実をしっかりと抱え込むというか、ちゃんと利用することを時間をかけて学んだんだ。バックエンド微生物たちの長くゆっくりとした活動が、我々のサイダーに複雑さやストラクチャーをもたらすことを期待して2年近く、澱引きをせずに熟成させるようにしている。今だから言える事なんだけど、うちらが持つイメージに反して、できてから6か月くらいのサイダーよりも18か月前後まで熟成させたものの方がよりフルーティなんだよ!加えて、熟成させたものの方が遥かに複雑で、調和が取れていて、しっかりした味わいがある…。これは全て、バック エンド微生物の活動の賜物なわけで…。月の井酒造店に行った際、イシカワさん(石川達也杜氏)に彼の醸したお酒を、あの素晴らしい香りをたたえた杉樽に入れて何年か熟成させたことがあるかという質問も、バックエンド微生物の作用に関する彼なりの経験を訊いてみたかったからなんだ。』
ワインがブレタノマイセスに“汚染された”とぼやく造り手の友達には、「ボトルにティースプーン1杯のビールでも入れてみたら?酸化防止剤なんかより遥かにマシだろうし…。」ていう、ややきつめのジョークをかますことも時々あったり…(笑)。
『もうひとつ、サイダーに関して僕が言いたいことがあるとすれば、それはサイダーがこの世に存在する飲み物の中でも数少ない、もとい恐らく唯一の万能さ、普遍性を持ち合わせたものだってこと。ワインやビールだと食べるものによっては種類を変える必要があるけど、サイダーはそれ1つでどんな料理にも対応できる。少なくとも自分の中では、世界屈指の美食家であるノルマンディー&ブルターニュ地方の人たちが、サイダーを愛飲する理由もそこにあると思っている。
これで僕が個人的にサイダーにどれほどの愛着を感じているのか、お分かりいただけたと思う。これまた偉大な美食家である日本の人たちが、この注目すべき飲み物の存在、そして(完全醗酵したサイダーが備える)日本の素晴らしい料理の数々の味わいに添い遂げる…いや、もっと言うなら、より豊かな味わいを口腔内にもたらすことができるというポテンシャル、そしてそしてワインでは到底無理な低アルコール度数による気楽さ加減などを評価してくれる日が来ることを僕が確信しているって言っても、今更ヒサトは驚かないよね。
適切で、長くゆっくりとした様々な微生物による醗酵に由来する、ドライで複雑な味わいのサイダーは、信じられないくらいにしっかりしたストラクチャーを備えていて、熟成のポテンシャルもあり、食べ物との相性も抜群…。あらゆる飲み物の中で何かしらひとつ選ばなければいけないとしたら、僕個人の好みとしては、やっぱりサイダー!ってことになっちゃうんだよね…。
アーメン!
アシュリー 』
我々が摂取する食べ物に含まれる食物繊維は、長らく“お通じを良くするのに効果的”程度の認識しか持たれてこなかったのですが、近年の研究で一部の腸内細菌(←バックエンド細菌!)にとっての“パーフェクトフード”であること、そしてそれら腸内細菌が分解したものがビフィズス菌など別の善玉腸内細菌のエサになっていることが明らかになっています。
関連する話をもうひとつ。ヒトの母乳には、ヒト自身が消化吸収できないタイプのオリゴ糖が含まれています。人体が消化吸収できないものが、同じ人体がつくる母乳という完全機能食の中に存在しているだなんて、奇異な事なようにも見えますが、このオリゴ糖も腸内細菌のエサとなることで、腸内環境を整える一助となっています。
あらゆる生き物が助け合いの精神をもって暮らせている状況こそが、人体そしてビールやサイダーにも健全さや安定をもたらす…。自然とヒト、ヒトとヒト、国家と国家…どういった世界においても、互いを敬えなかったり、相手を出し抜いて自分だけが得することを考えた時に、争いやしっぺ返しが待っているというのも、似たような話だなぁと思ってみたり…。
そんなわけで(どんなわけ?)、もうしばらくの間お安く出させていただきますので、2MTのサイダーをもっと飲んで、ヒトとも腸内細菌ともより親密になっちゃってくださいっ!!!(笑)
銘柄:Huon Farmhouse Wild Dry Cider / ハオン ファームハウス ドライ サイダー
造り手:Two Metre Tall / トゥー ミーター トール
地域:豪 タスマニア島
品種:スターマー ピピン
では、新入荷案内でっす!
【デ バルトリ】
オータ認定ワイン世界遺産なシチリアのデ バルトリからは、欠品していたワインの新ヴィンテージ&新ロットが一通り、そして新たなシリーズ、DBE(デ バルトリ エトナ!)のワインも届きました!!一時期、別のワイナリーで雇われ社長をやっていた長男レナートがデ バルトリに出戻ってきて、立ち上げたのがこのプロジェクト。2021年にエトナに畑&ワイナリーを購入、ワインを造り始めることに。
今回届いたのは、ネレッロ マスカレーゼで造るスプマンテ ブラン ド ノワール(黒ブドウで造る白スプマンテ)2021、エトナ ロザート2022、樹齢20年強のネレッロ マスカレーゼで造るエトナ ロッソ2021、そして樹齢80年超の区画で造るエトナ ロッソコントラーダ ランパンテ2021(エトナ産の栗の木の大樽で熟成)になります。
近年の彼らのスタンダードライン非酸化白ワインの品質の向上たるや、本当に目を見張るものがあると思っていたのですが、2022ヴィンテージもすっばらしいです!あと2021ヴィンテージのインテジェル ジビッボ&インテジェル グリッロもとってもステキです!ジビッボは抜栓直後からエンジン全開、グリッロは2日目以降くらいが楽しいかもしれません。
そしてデ バルトリのフラッグ シップ的ワイン、ヴェッキオ サンペーリも普段よりも多めに入荷しております!為替の影響もあり、価格もグッと上がってしまいましたが、全く代えのきかない存在であることを考えたら、致し方がないのかと…。そしてそして若いヴェッキオ サンペーリにアルコールのみを添加した、マルサーラ ヴェルジネ1988(1988は、酒精強化を施した年)の最後の最後の現地在庫も届きました。何も聞かずに分けてもらえるだけもらったのですが、蔵出し価格がかなり上がってました(苦笑)。とはいえ、酒精強化した時点でのベースのワインの平均熟成年数が仮に5年だったとしたら、現時点では40年物のワインという事になりますから、それでも安い!とも言える気が…。
そしてそしてワインの先の世界へと旅立たれてしまったブックラムやらヴェッキオサンペーリの澱がらみの部分やらをベースにしてつくったお酢、アクトも再々入荷、そしてそしてそしてマルサーラ周辺とエトナで獲れたオリーブでつくるオイルも届きました!
【トリンケーロ】
20年以上に渡るヴィナイオータなりの精力的な活動をもってしても、本来あるべき評価にはまだまだまだ道険し…なトリンケーロ、1930年代に植えた区画のバルベーラで造るバルスリーナは2013、ネッビオーロ&バルベーラと並び、偉大なポテンシャルを備えた土着品種フレイザで造るルンケットは2012を現行として販売していますが、バルスリーナは2018を、ルンケットは2017をリリースし、併売することにしました。
バルスリーナ2018ですが、トリンケーロのワインにしては珍しく、とても早い段階で状態が整ったワイン。トリンケーロの自宅兼セラーは、そりゃもう立派なお屋敷で、今現在の彼の生産量を考えれば十分すぎる数の木樽、ステンレス&コンクリートタンクを持っているのですが、ボトリングしたワインをストックできるスペースは非常に限られています。
コロナ渦期間中、売れる保証のないワインをボトリングして、セラーがボトルだらけになることを嫌ったエツィオは、ボトリングすべきいくつかのワインのボトリングを取りやめるのですが、その中にはこのバルスリーナ2018と2019両方がそれぞれ15000本分くらいありました。オータ的には断然2018こそボトリングを急ぐべきワインだったのですが、(その2018を)ボトリングするためには、よりボトリング機の近くのタンクまで移す必要があったのと、タンクの移し替えを行う際に一緒に澱引きをしようと考えると、バルスリーナ2019が入っているタンクを空にする必要が…。
勘のいい方ならお分かりかもしれませんが、弊社には数か月前の時点でバルスリーナ2019も届いていたのです…。じゃあなぜ2019を先にリリースして、2013と併売しなかったのか?抜栓した次の日には、マメっちゃうんです…(涙)。
そんなこんなでボトリング後に極端に還元しないことを神様にお願いしながら到着を待っていた2018が先日届きまして、試飲したところ問題なし!と判断、今回リリースすることになりました。オータがセラーで飲んだ時よりも揮発酸が目立つ気がしましたが、十分に許容範囲内ですし、逆にそのニュアンスが骨格のしっかりしたこのワインを軽い飲み心地にしてくれているように思います。
2018も2019も生産量の半分を買うことを条件に、エツィオにスペシャルプライスを出してもらいまして、この鬼為替レートの状況の中でも2013よりも15%ほどお安くお出しすることができました!ロッソ デル ノーチェ4に続き、また意味の分からないコスパのワインの登場です!トリンケーロもヴィナイオータも救うべく、清き1ケースをよろしくお願いします!
なぜ売れないのかが全くもって理解できないバルスリーナ2013も、残り在庫が300本台に突入しております。今飲んでも美味しいですが、熟成させてもヤバいことはお約束しますので、こちらも是非!
ルンケット2017ですが、非常に暑い年だったこともあり、強烈な果実味があるのですが、フレイザという品種の特徴ともいえる荒々しいタンニンはどこへやらな感じで、あくまでも柔らか&滑らか。現時点での飲み心地としては、現行の2012や既着の2013と2015よりも上と判断し、2013と2015を飛ばして2017をリリースすることにしました。これも無茶苦茶美味しいですよ!
*ブログ掲載時には完売しているワイン、商品がございます。予めご了承ください。