toggle
2018-03-16

造り手紹介 Massa Vecchia / マッサ ヴェッキア

造り手:Massa Vecchia / マッサ ヴェッキア
人: Francesca Sfondrini / フランチェスカ スフォンドリーニ(現当主、2009年~)
Fabrizio Niccolaini / ファブリーツィオ ニコライーニ(前当主、~2009年)
産地(州):トスカーナ
ワイン:Arient,Bianco,Rosato,La Querciola,Berace,Sangiovese,Passito
所在地:
Web:http://www.massa-vecchia.com/

ファブリッツィオ ニコライーニ(前当主、代替わりについては後述)とその家族によって営まれる彼らのワイナリーは、トスカーナ州の南端グロッセート県のほぼ中央に位置するマッサ マリッティマにある。1986年より、標高200~450mのところにある2.1ヘクタールの畑から始め、現在は3ヘクタールでブドウを栽培。土着品種であるヴェルメンティーノやサンジョヴェーゼ、アリカンテを中心に、土壌やブドウの特性をより自然な形でワインに表現できたらと考えている。当初から一切の化学肥料を使わない有機農法を実践、現在では家畜の飼育・その家畜に与える餌の生産・ワラや残根と家畜の糞尿から完熟堆肥の生産、これらの全てを自分たちでまかなう循環型農法を実践している。ワイン造りでは、野生酵母のみを使用して、木製の開放醗酵槽でのマセレーションと醗酵を行い、春先の樽の移し変え時かボトリング時の2酸化硫黄の添加もごく少量に抑えるなど、温度管理や化学合成物による人為的なコントロールをせずに醸造を行い、年間約10,000本を生産。

近年ではフランス・アルザスの生産者ジェラール シュレールの現当主ブリュノ氏と親交を深め、栽培・醸造の両面で影響を受けあっている。


前当主ファブリーツィオ

ビアンカーラのアンジョリーノから、”トスカーナに10000本くらいしか生産本数がないくせに10種類くらいワイン造ってる奴がいるんだけど興味あるか?”と聞かれ、電話番号を教わり、ワイナリーまで行ってみました。

あいにくこの日は旦那のファブリーツィオがいないということで、奥さんのパトリーツィアが相手してくれました。畑での仕事から、ワイン造りまで一通り簡単な説明を受け、”話だけじゃしょうがないから、ワインでも飲みましょうか”と言って開けてくれたアリエント1998には香りだけで驚いた。
ヴァレンティーニのトレッビアーノを髣髴とさせる硬質なミネラルを持ちながら、どことなく親しみやすい・・・。

思わず、”飲む前に言わせてもらうけど、なぜアンジョリーノが自分にあなた達のことを紹介したのか、よーく分かった。で、取引させてもらいたいんだけど”と言ってしまった程。その後飲むどのワインも美味しくて美味しくてかなり気持ちよくなっちゃったのを記憶しています。

彼らがこの当時使っていたラベルをワイナリーで見た時パッと思い出したのですが、むかーしむかし、イタリアに住んでいた頃、彼らのワイン(カベルネ)をフィレンツェのワインバーで飲んでいた事を。その当時の僕には、しょっぱいワイン(還元してた)だなぁという印象くらいしか持てなかったのですが、数年経った2001年には美味しいと感じている。味覚の世界で確実に自分が変化しているというのを実感しました。

彼らの住む、マレンマ地方独特の種類の牛だそうです。今はこの2頭とも売られてしまっていて、2頭メスを買ったそうです。牛に食べさせる餌も自家製(当然無農薬)、その牛の糞から堆肥を作り、それを畑に還す…そう彼らは自己完結した循環型の有機農業を実践しているのです。

半年熟成させた堆肥を、3.5ヘクタールの畑を3分割し、とある時3分割したうちの1つの畑の奇数列に堆肥を入れ、半年後別の畑の奇数列、更に半年後更に別の畑の奇数列、そして次の半年後に最初の畑の偶数列という感じで、3年かけて全ての畑に施肥を行います。彼らの畑の土壌自体、雨が降って後乾燥すると、石のように硬くなってしまうそうで、微生物にとっては苛酷な環境らしく、失われつつある土壌中の微生物の活力を蘇らせる程度に施肥を行うとの事。

上図はサンジョヴェーゼ、株の根元に見えるツンツンした葉っぱは野生のにんにくです!
畑で以前はポレンタ用のとうもろこしを作っていたらしいのですが、かかる費用を純粋に価格に反映させてしまうと、スーパーなどで普通に売っているものより、3-4倍高くなってしまったらしく、なかなか売るのが難しかったようです。
いまや、真っ当な仕事をする農民が普通に生きていく術として唯一残されているのが、ブドウを自家生産しワインまで加工して販売することだけだと言ってました。
確かに一般的な価格より10倍高いお米見たらビックリしますけど、ワインの世界では桁が2つ違うことだってそれほど珍しいことじゃないですからね。
で、ワインの話ですが、アンジョリーノの言う通り、昔は色々造っていましたがやっと最終形となれたのではないでしょうか?

マッサヴェッキアの代替わりについて
既にお気付きの方も多いと思いますが、2009年以降にボトリングされたマッサ ヴェッキアのワインには、フランチェスカという名前が入っていて、ラベルも若干変わりました。フランチェスカはファブリーツィオの娘で、マッサ ヴェッキアの新しい当主です。

ファブリーツィオは、マッサ ヴェッキアという会社(農業組織)の中で、スーパーヴァイザー兼醸造責任者という役に退いたのです。ですので相変わらずファブリーツィオがワインを造るので何にも変わりませんからご心配なく!

なぜそんなことになったのかといいますと、人里離れたところに建てた家で、”ほぼ完全自給自足”を目指そうと決意したからなんです。ありとあらゆる家畜、 家禽を飼い、飼料も自分たちで育てたものを使い、ハムサラミチーズも自分で作り、パンも焼く。これを実現するためには、限られた時間をよりブドウ栽培以外 の農業に充てなくてはいけない。というわけで、フランチェスカを当主に据えたのと同時に2人の従業員を雇い入れ、醸造以外の日々のワイナリー仕事は3 人に任せるという風になりました。

代替わりをすると聞いたとき、僕はファブリーツィオがもう少し頻繁に山から下りてきて、フランチェスカに細々指示を出すものだと考えていたのですが、そうではなく、生活の9割以上を山での生活に捧げているのをみて、そしてそれが原因ではなかったとファブリーツィオは最終的に結論付けていたとはいえ、“2009年ロザート揮発酸高くなる事件”の話を聞いた時、正直マッサ ヴェッキアの今後の行く末がとても心配になったのですが、それを払拭するこんなエピソードがありました。

2010年の春のイタリア旅行の際に、僕はVinoVinoVino(MVも属すグルッポ ヴィーニ ヴェーリが主催するサロンの名前)で、彼らのところに訪問する日時を伝えておいたのですが、フランチェスカは僕が確認の電話をするものと思っていて(逆に僕自身はアポをフィックスできたと思っていました)、彼らにとっては僕の訪問が突然のものとなってしまいました。

彼女自身、他の誰にも(つまりファブリーツィオにも)僕が来ることを伝えていなかったらしく、山から下りてこれるかどうか分からないと言う・・・。ファブリーツィオに会えないかもという寂しさと共に、想像していた以上に彼らの間で連絡を取り合っていないという事実にちょっと不安になり始める僕。結局山から下りてきてくれて、いろいろ話をしながらワインを飲んでいたら、いい時間になっちゃいました。
さて久人を今晩どうやってもてなすかと相談する2人。
結局、泊まるのはファブリーツィオ宅、食事は一家全員+僕がフランチェスカの家(若いですがもう結婚しています)でご馳走になることに。
その日の夜の食事は一生忘れないと思います。

まず最初に、彼ら自身で育てて、自ら屠畜した豚で作ったプロシュット クルード
そして、夏の野菜が沢山取れる時期に仕込んだありとあらゆる野菜のオイル漬、酢漬け
自分達が飼う鶏の卵と野生のハーブのフリッタータ
前述の豚のグアンチャーレとこれまた夏に大量に仕込んだトマトソースでアマトリチャーナ、オイルも自家製

つまり、ファブリーツィオ&パトリーツィアと同じようなライフスタイルをその時30歳と26歳の夫婦が実践していたのです!!

親がワイナリーをやっていたから何も考えずにそれを継いだのではなく、農業、ワイン造りを含めた親達のライフスタイル(覚悟)に共感を覚え、彼女自身も実践したいと考え、その中にワイナリー、つまりはファブリーツィオとパトリーツィアの仕事を引き継ぐということも含まれてたような感じとでも言えばいいのでしょうか・・・。

表面的なものではない、決意、覚悟、気合とかいう精神面、イズムとでも呼ぶべきものがしっかり引き継がれたんだと、この晩に確信したんです。
醸造学校や農学校を出て、ワイナリーを引き継ぐことを前提にして人生を送ってきた子供たちより、ワイナリーに関わり始めたのも遅いし、専門的な知識に欠けるという面があるかもしれません。だけどそれは本人の努力やアンテナを高く張り巡らすことによって、それも彼女の場合は農業においても醸造においても偉大すぎる男が近くにいるわけで、つけられている差をあっさりと詰めることさえできるかもしれません。
常々思っているし、事あるごとに言っていますが、技術が人を感心させる事はあっても、心を動かすことはできない。精神こそが人の心に働きかけ、偉大なる精神に卓越した技術が伴った場合に、感動が待っているのではないでしょうか?
マッサヴェッキアのワインの歴史とは、彼らのおかれている状況下でとった、その瞬間にベストだと考えたことを実践した事の結晶で、それはまさしく僕が”自由なワイン宣言”の中で書いたことと重なります。

つまり、彼らが置かれることになった様々な不自由こそが、より自由であるために彼らにその瞬間何ができるのかを考える原動力となったわけです。
あれだけ素晴らしいワインを造りますから、妥協のない造り手で、常にワインのクオリティに念頭を置いて仕事をしていると思われているのかもしれませんが、そうではないんです。
むしろもっと泥臭く、人間的に生きていて、私生活がワイン造りに多大な影響を与えているんです。

MV史にはこんな話もあるんです。
昔はワイナリーのそばに生簀を持っていて、鱒を飼ってそれを販売していたが、とある日、保冷車を持たないと納品(つまり販売)してはいけなくなったので鱒の養殖をやめた。
ポレンタの粉も商品として作っていて、オーガニックショップみたいな所に納品していたが、全然売れないのでやめた。
オリーブオイルも作っていたが、とある年、オイルをボトリングする場所はワインを醸造、熟成させる場所とは空間的に隔絶されてなくてはならない(つまりオイルをボトリングするための専用の部屋が必要)という法律ができたのでボトリングをやめた(その法律は再び変わったと思われ、今は再びボトリングしてます)。

こういった彼らの身に降りかかったネガティブなエピソードが、彼らのMV史の中に書かれてあるように、大量生産型ではなく彼らが望むような農業を実践しつつ、その労働に対しる正当な対価をもたらすものは(非常に残念だけど)、ワインだけだった・・・という件に関連していたりします。
彼らも自分達のワインが、その価値があるものだと確信しつつも、決して安いものではないとは認識しています。なだけに、ワインには彼らの思いや魂が込められているべきと考え、固定のレシピを持たずに常に考える・・・。

2007年、2008年の家の完成以降に始まる山奥での自給自足的生活を考えた時、まだ継ぐかどうかを迷っていたフランチェスカを期待するわけにもいかず、ワイナリーと自給自足、どちらにも手が回るようにするためには生産量を減らすしかない、だとしたら土着品種でないものを醸造しないのが筋だと考え、メルローとカベルネを売ることにした。
なら何を使ってロザートを造るか?
マルヴァジーア ネーラとアレアーティコがアロマティックだしいい感じになるのでは?と考える。
じゃあアレアーティコでパッシートは造れないね、となり・・・。

結果2009年にはフランチェスカは継ぐことになり、2007年にちょっと無理してメルローとカベルネでも何かを仕込んでいれば、2008年の悲惨な収穫量の埋め合わせにもなったろうし、MVファンも飲めるワインが増えていた・・・。
2005、2006のような見た目も味わいもほとんど赤な、尊大な味わい(だけど恐ろしく飲み進む)のロザートにあまりにも惚れ込みすぎて、初めて2007を樽から飲ませてもらった時、あまりにもキャッチーに思えて正直がっかりしたこと、それをファブリーツィオに匂わせてしまったことをたった今思い出しました!今なら彼の置かれていた状況が良く分かるので・・・悪いことしちゃいました(反省)。

で、そのロザート2007年ですが、あまりにも官能的なアロマで、それに耽溺してるうちに1本空になってしまうようなワインなのですが、ちゃんと突き詰めて飲んでみると中身も深い(MVのワインなんだし当たり前だろ!と突込みが飛んできそうですが)。
見た目があまりにも良すぎてそっちに目が行っちゃうけど、人間としても素晴らしい女性・・・みたいな感じでしょうか。
マルヴァジーアを入れたアリエント2002を飲んだ時も、もったいないなぁ、ヴェルメンティーノ単一の方が良いなぁ・・・と思ってたわけですが、結果はファブリーツィオの言うとおり、リリース当初はマルヴァジーアのアロマが飲み心地を演出しそういうワインとして楽しめるし、熟成と共にヴェルメンティーノの凄味が顔を出しまた別のワインとして楽しめる、一粒で二度美味しいワインとでしたし・・・。
2002年は雨がちな年ということもあり、マルヴァジーアのアロマがより強調されてしまい、そう思ってしまったのだと今なら分析できるのですが・・・まだまだ青いですが、あの当時はもっと青かった僕なのでした。

結局何が言いたいのか良く分からなくなっちゃいましたが、MVのワインの味は彼らの人生の味、というようなことが言いたかったような・・・。
その瞬間瞬間の人生をここまでワインに封じ込めることに成功している造り手といえば、イタリアではMVとPanevinoくらいしか思いつかないです。

ワインは嗜好品と言われているわけだから好き嫌いがあって当然だし、ヴィンテージチャートがあるくらいだから、ヴィンテージがワインの品質の良し悪しに大きく反映してるって、本当にそうなのか検証もせずに信じていたりしないですか?
どのワインも毎ヴィンテージともそれぞれに個性的に美味しい上に、毎年毎年何かしらやらかしてくれちゃっている面白さ・・・現状でも熱狂的なMVファンは沢山いる(ありがとうございます!)のですが、そんな方達にももっともっとその面白さを自身で体感していただきたいですし、その素晴らしさをまだ体験したことない人にもトライする機会をより提供したい・・・どう控え目に言ったとしても、MVはそれに値するワインを造っていると思っています。
仕入れる本数を今の3分の1にしたとしたら、きっと瞬間的に無くなっちゃうんだと思いますが、それでは僕が願う、偉大な造り手をより多くの人に伝えるという機会を逸してしまうことになる。そしてさらに、市場で彼らのワインは希少性みたいなもので評価されることになるかもしれない・・・。
中身の素晴らしさだけで皆さんに評価してもらいたい、そして僕が僕のワイン観を彼らのワインで変えさせられたような経験をより多くの人に今後してもらいたい・・・そんなことを考えた時、彼らが分けてくれる最大限の本数(ものにもよりますが、生産量の3割程度でしょうか)をとりあえず買っちゃうようになりました。

【新入荷】2018年3月 その2(Massa Vecchia、L’Acino)

【新入荷】2018年2月 その2 (Gravner、Massa Vecchia)

【新入荷】2017年9月 その4

【新入荷】2017年2月 その3

【新入荷】2016年4月 その3

【新入荷】2015年10月その2&3

【新入荷】2015年2月その2

【新入荷】2014年9月その1&2

【新入荷】2014年3月その1

【新入荷】2013年10月 (Il Vei、Massa Vecchia、Frank Cornelissen)

【新入荷】2013年8月 (Bartolo Mascarello、Trinchero、Massa Vecchia、Paolo Bea、Arianna Occhipinti、De Bartoli)

【新入荷】2013年3月 (Il Buonvicino、Vodopivec、Alberto Anguissola、Massa Vecchia)

【新入荷】2012年12月 (La Biancara、Barbacarlo、Nicolini、Pierpaolo Pecorari、Campi di Fonterenza、Frank Cornelissen、Massa Vecchia)

【新入荷】2012年4月 その2 (Massa Vecchia、Case Corini、Aldo Bianco、Il Vei)

MV史の意味

MVによる自給自足的生活

Prof.VinaiotaによるMV近代史(おそらく完成)

 

関連記事